
咳止め薬、解熱剤不足 考察32
最近ニュースで、表題の薬剤が不足していて困った、大問題だというニュースが繰り返し報道されています。
原因としては、ジェネリック医薬品メーカーの度重なる不祥事による業務停止等の行政命令によって、製造数量そのものが低下してしまっていること、また、これ等医薬品は古い医薬品で、特許も切れているうえ薬剤単価が低いので、どの会社も積極的に製造をしたがらないから、といったことも言われています。
それはそれで理解できるのですが、一方で、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザによる上気道炎で咳を伴う場合、咳止め薬(鎮咳薬)や鎮痛解熱剤が、本当に必要であるのかどうかという、一番重要な論点がすっかり抜け落ちてしまっています。
最近の鎮咳薬の主流は、昔と違ってリン酸コデイン(麻薬系)ではなく、デキストロメトルファン系であって、作用としてはコデイン系と比較すれば弱いが、習慣性といったような大きな副作用はないとされています。
ただ、このデキストロメトルファン系も中枢神経に作用するタイプですから、以前解説した、鎮痛解熱剤としての『アセトアミノフェン』(商品名「カロナール」等)と同様、気休め薬的な面も大きいのではないかとは思います。
もっとも、私自身は実際に服用したことがありませんので、正確なことは言えません。
痰を造りやすい状態にして、咳の発生を減らすというのが去痰剤の役割ですが、水分補充を十分に行わないと、あまり効かないということになります。
市販薬は、去痰剤と鎮咳剤の両剤を配合したものが多いということです。
品不足という情報が一般に浸透するようになると、自分には必要ないかな?と思っても、家族が感染した場合に備えて備蓄目的で確保しておこうか、といったように考えてしまうのが人情というものです。
軽い咳、発熱であっても、医療機関を受診すれば、念のためといった意味でそういった薬剤を処方してもらえますから、そういった薬剤を服用することによって感染症が治るものなのだと誤解していたり、中には処方してもらわないと損しちゃう、などといったような感情を抱く人まで出てくるものと思われます。
健康保険制度のお陰で、自己負担金は少ないので、よりそういった心理が働きやすいのだと思います。
つまり、品不足に一層の拍車をかけてしまう可能性があるということになるのですが、それらは結果的に製薬会社の売り上げ増に単に協力しているだけということになります。
マスコミが火をつけて、一般人がその火を扇いで広げるという図式です。
品不足で困っているのは患者サイドではなく、売りものが無くて減収になる医療機関なのではないですか?と、ちょっと皮肉も言いたくなります。
咳には過剰な反応として、意味なく咳が続くようなことがありますと、患者のQOL を著しく低下させますので、絶対に使うべきではないなどということを申し上げるつもりはありませんが、通常に自力で医療機関に行ける状態で、一般的な風邪症状で咳も伴っているような場合に、「一応、咳止めも出しておきましょう」であるとか、「念のため、解熱剤も処方しておきましょう」といったソロバン優先の処方が無ければ、品不足になるということは、実は非常に考えにくいことなのです。
一般的な開業医院としては、そういった処方箋代や院内処方薬剤の売り上げに依存している面が大きいですから、どうしても「念のために一応出しておきましょう」といった『お為ごかし処方』になり易く、それこそが、すべての根源と言えるかと思います。
「一応、解熱剤や咳止めも出しておきますね」と医師に言われたら、90%以上の人が「はい、お願いします」と答えるのではないでしょうか?
風邪引いただけでも医療機関を受診せずにはおれない、といったようなお考えの方々であれば、90%どころか、ほぼ100%なのかも知れません。
大体私くらいの年齢(昭和20年代後半生まれ)であれば、風邪を引いただけで医療機関に行くことなど、全く考えられないことであって、異常に高熱が続く、咳がひどくて呼吸困難に近い状態になる、もしくはひきつけでも起こさない限り、医療機関を受診しようなどという発想は、まったく無かったように思います。
ところが、最近ではたいした症状もないのに、風邪症状が出ただけですぐに医療機関を受診し、検査してもらって「インフルエンザA型ですね」と言われると、何となく安心して納得する、というパターンが普通になってしまったようです。
その程度であっても、医療機関を受診させないと虐待扱いされかねない風潮というものは困ったことです。
インフルエンザにしても、コロナウイルス感染症にしても、これさえ飲めば、この注射さえすれば、劇的な効果を発揮するなどといった特効薬などまったくありませんから、咽喉部の炎症があれば抗生剤、軽く咳が出ていたり、わずかに発熱でもあれば、前述のセリフ「一応、解熱剤や咳止めも出しておきましょう」と言われれば、断る人は皆無に近く、ほとんどの方が「お願いします」となってしまうわけです。
はっきり言ってしまえば、ほとんどが無駄な処方、薬剤乱用と言っても過言ではありません。
そういったことが、医薬品の消費量を著しく増大させています。
そして、その結果として、薬剤不足と将来的な薬剤単価上昇にも直結することになります。
鎮咳薬も鎮痛解熱剤も対症療法
念のために申しあげておきますと、鎮咳薬や鎮痛解熱剤というものは、対症療法のための薬剤であって、直接の原因疾患に対する治療効果は皆無です。
むしろ、真犯人である感染症の治癒という面からみると、回復を遅らせる方向に作用する可能性の方がずっと高いのです。
ですから、「風邪かなと思ったら、早めのパブロン」などというコマーシャルなど、本来なら放送禁止にすべきです。
予防的効果を有する、と消費者に重大な誤認をさせてしまう可能性が著しく高い、有害コマーシャルです。
咳の発生を多少抑えてくれるのは、感染症が改善、好転してきたからではなく、咳中枢の神経の働きを弱めて咳を止めてしまう作用や、痰を増量して咳の回数を減らすという効果ですから、麻酔薬で痛みを感じなくなったから、傷は治ったのか?と問われれば、誰でもわかることですが、全く違うのと同じことです。
風邪などの場合には、最終的にはウイルス等に対して生物の免疫能が勝ちますから、多少回復が遅れたとしても辛さを減らした方が良い、という発想ですし、そうだねと考える方もいらっしゃるかとは思いますが、過剰に使用、乱用することが良いことであるはずがありません。
もちろん、解熱剤も同様どころか、もっと影響が大きい訳で、アセトアミノフェン製剤(カロナール等)などの場合、気休め薬に近い作用ですから、懸念するほどの副作用、悪影響はないと言えますが、それでも、免疫能発動中に薬剤で発熱中枢の働きを抑えて熱を下げてしまう、ということは明確に回復を遅らせることになります。
だいぶ以前にも、記述したことがあったように記憶していますが、米国などの病院では、40℃以上の発熱が続くと、脳細胞のたんぱく変性による脳機能障害を防止するため、身体全体を氷水に漬けるという措置が行われることはありますが、例えば、アスピリンやタイレノール(アセトアミノフェン製剤)を入院患者に投与するようなことはないと聞いております。
これも以前に記述した記憶がありますが、アセトアミノフェン(カロナール、タイレノール等)製剤の公認されている薬理作用を紹介します。
アセトアミノフェンは「解熱」と「鎮痛」という2つの効果を併せもつ成分です。 主に脳にある「体温調節中枢」に作用し,血管を広げることで体外へ熱を逃し,熱を下げる働きをします。
となっておりますが、体温をコントロールする仕組みのうち、末梢動脈の収縮、弛緩による血流量の調整による影響など微々たるものであって、そんなことで解熱作用があるのだとしたら、シャツを脱ぐといった着衣の調整だけで、自由自在に体温調整が出来ることになってしまいます。
この作用機序によって生じる効果を信じるような人は、ハッキリ言ってどういう思考回路の持ち主なのでしょう。
簡単にオレオレ詐欺に引っかかってしまうタイプ、ということなのでしょうか。
一度、承認されてしまった医薬品の効能、効果、作用機序などが修正、訂正されることは、まず滅多にありません。
「カンフル注射薬」のように、どうしてもまずい、つまり人命に関わる、かえって生命を危うくするということを行政側が認識した場合でも、まず、毒にも薬にもならない改良した薬剤を製造させ、それも最終的には製薬メーカーに自主的に製造承認を取り下げさせる、というのが通常のやり口です。
行政に、責任が及ぶことだけは絶対にないようにするためのやり口です。
養命酒の効能
知名度が高いので、あくまで例として挙げているだけで、「養命酒」が悪い、効果がない、などということを申し上げているのではまったくない、ということをご了解いただいたうえでお読みいただきたいのですが、養命酒製造社の公式ホームページによりますと、その効能は
冷え症、肉体疲労、胃腸虚弱、血色不良、虚弱体質、食欲不振、病中病後の滋養強壮、
となっております。
今日、このような効能効果を並べて医薬品の新規製造申請を行ったとしても、承認を得ようとしたところで、まったく相手にされません。門前払いです。
「冷え性」の定義、判定法は?「肉体疲労」の定義、判定法は?「胃腸虚弱」の定義、判定法は?ということで、その後に続く効能、効果もすべて同様です。
今現在、同じ効能効果があるとして、新規に医薬品製造承認を得ようと思っても、まったく話にならない内容、ということにはなるのですが、別に養命酒の製造承認が取り消されることはありません。
実際、漢方系の薬剤はちょっと承認基準が異なりますが、さすがに、この効能、効果では、新規に漢方薬として申請したところで承認は難しいのではないかと思われます。
まぁ、既得権益といったことになるのでしょう。
医薬品の世界、それに対する行政の姿勢とはそういったものなのです。アセトアミノフェンの作用機序と、そこから導き出された効能が、近代生理学的には生じえない結果であったとしても、一度認可されてしまえば、重大な副作用報告でも出てこない限り、未来永劫引き継がれていくというわけです。
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