
ワーファリン(経口抗凝固剤)復活 考察28
いつ頃のことからなのか、はっきりはしないのですが、最近では脳梗塞(脳血栓症)の原因として、圧倒的に『心房細動原因説』が主流になってきたようです。
以前は、動脈血管の内皮細胞内側に『アテローム』というコレステロールを主たる素材とする物質が蓄積して、次の段階ではその膨らんだ内皮細胞にカルシウムが沈着した結果、硬化、脆弱化してしまい、何かの拍子に剥がれてしまったものが、動脈血管中を流れて血管を詰まらせる、という説が最有力説であり、実質唯一の仮説であったと思われます。
であるからこそ、『高脂血症治療薬』であるとか、『コレステロール合成阻害薬』的な薬剤が、多くの方々に処方されてきました。
また、その予防のために、つまり、血液が血管内で固まってしまうことがないように、常用するには最も危険と言っても過言でない、『ワーファリン』の処方量が最近増加に転じているようなので、その辺りのことについて順を追って説明していきたいと思います。
この心房細動原因説という新説は、10年ほど前から紹介されるようになり、その予防手術である「左心耳閉鎖術」が、本邦において導入されたのは2020年とのことです。
心房細動と脳塞栓症
インターネットで是非調べていただきたいのですが、左心房の上部には「左心耳」と呼ばれる、どういう訳かちょっと特殊な形状になっている部分があります。
あるインターネット上で公表されている医学関連の記事によれば、以下のように述べられています。
左心耳は、左心房の圧力を逃がすなどの働きがあるが、なくても問題ないことがわかっている。心筋梗塞など他の手術のついでに左心耳の入り口を糸で縛ったり、左心耳を切り取ったりすることがある。
ただし、そのためだけに胸を切り開いて手術するのは体への負担が大き過ぎる。
左心房上部に、ちょっと垂れ下がったような形の膨らみがあるのですが、現代医学上は、無くても良いものと考えられていまして、過去における虫垂(俗にいうところの盲腸)と同様、無駄なものと考えられているということです。
むしろ、左心耳があると、役に立っていない無用の存在でありながら、血栓を形成してしまう部位であるから、できれば塞いでしまった方が良い、と考えている訳です。
左心耳の存在理由は、胎児期の特殊な血液循環を達成させるために必要であった、といった説もあるようですが、一方で、心房の中隔の孔(卵円孔)が、出生と同時に急速に閉塞する(2~3日間とされています)という事実は知っている訳ですから、そんな危険な左心耳が、成長過程で何らの形態変化も起こさずに存在し続けるということの方が、よほど無理な解釈であろうと思うのですが、心臓外科や循環器内科の医師は、どのように考えているのでしょうか?
なお、「左心房の圧力を逃がす」とい意味は、圧力調整のための副々室(もともと心房自体がその役割ですので)のような役割はしているようだが、無くても全く支障はない、と考えているということです。
つまり、左心耳などなければ、脳梗塞(脳血栓症)を起こすリスクが大幅に低下するのだから、何らかの開胸心臓手術のついでに、左心耳の付け根を縫って塞いでしまう手術を実施することも、カテーテルを動脈血管に挿入して、左心耳にキャップを嵌め込んでしまう、左心耳閉鎖デバイス留置術といった術式もあるのだそうです。
もし、無用論という仮説が間違っていたとしたら、誰がどう責任を取るのでしょうか?
現在のところ、左心房に血栓が存在していることを示す映像はありますが、その成長過程に関する記録は存在しないものと思われます。
ある日、気付いたら(映像検査をしたら)存在していた、ということなのです。
ただ、知っておいていただきたいことは、現在ヒトの虫垂は無用の長物、単なる進化途上の必要器官の名残のような存在ではなく、比較的最近の医学研究では次のように考えられています。
虫垂リンパ組織は、大腸および小腸に動員されるIgA産生細胞を作り出し、大腸の腸内細菌叢の維持に必要なリンパ組織であることが明らかになった。
つまり、ヒト大腸内の腸内細菌バランスを保つために、必要不可欠な組織(たぶん、一部の腸内細菌を他の細菌群に邪魔されずに培養する役割かと思われます)であるということなのですが、虫垂は無用の長物どころか虫垂炎を起こす元凶ということで、一時は完全に厄介者扱いをされていたことは、多くの方がご存知でしょう。
扁桃腺はどうか?
50年あるいはそれ以上昔ということになるのかも知れませんが、しばしば風邪を引いて、口蓋扁桃が炎症を起こし(当時は一般的に扁桃腺炎と呼ばれていました)、高熱を発生させ、本人も辛いから、この口蓋扁桃の切除術が比較的お気楽に実施されていました。
取ってしまっても、支障はないようだし、あればその部分に炎症を起こした際には高熱を発生させる原因となるから、取ってしまった方が良い、と考えていた訳です。
この術式は今でも、施されることはありますが、日常生活に不便が出るほど頻繁に炎症を起こすとか、大手病院(大学の附属病院等)で、専門の耳鼻咽喉科があって、しかも手術設備、スタッフが整っている病院に行けば、手術を薦められることがあるかも知れませんし、そういった設備、スタッフがそろっていない医療機関では、抗生物質の処方だけで済ませてしまうだろうな、と思われることではあります。
もちろん、現在では口蓋扁桃やアデノイドなどの、一見ただの厄介者のように見えないこともないが、免疫を司る器官を安直に切除するなどということは、基本的には考えられないことです。
医学書の解説によれば、
扁桃はのどにあるリンパ組織で、ウイルスや細菌などがからだに侵入しないよう防御する役割を担っています。いわゆる扁桃腺として知られる口蓋扁桃のほか、アデノイド(咽頭扁桃)、舌扁桃、耳管扁桃といった扁桃組織がのどを取り囲んでいます。アデノイド、口蓋扁桃は小児期の4~8歳ごろに最も大きくなり、その後は年齢とともに小さくなっていきます。
こういった、ウイルスや細菌(感染源)の深部呼吸器への浸入を防ぐ任務を担っている器官ですから、それらが炎症を起こすのは『身代わり地蔵』のような存在です。
この部分でウイルス等を引き留めてくれて、免疫能が集中攻撃してくれているからこそ、感染が気管支や肺胞といった器官に至らずに済む、という考え方も成立する訳ですし、実際のところそうであるとかしか考えられません。
口蓋扁桃がある人と切除してしまった人における肺炎発症率などを比較すれば、その術式の是非は判明しているはずなのですが、過去の重大な過ちは認めない、触れない、というのが、少なくとも日本医学界の常識ですから、今後も明らかにされることはないものと思われます。
つまり、少なくとも、一時期は無用の長物、厄介者、単なる進化途上の名残り、と思われていたような器官であっても、本当に無用なものなど存在しなかった(少なくとも今日までは)、ということになるのですが、新たな無用の長物どころか厄介者として、現在ではこの『左心耳』がやり玉に挙げられている、ということです。
心房細動と左心耳血栓
心房細動というのは、不整脈の一形態であり、一種の左心不全であるともされています。
左心室はきちんと拍動をしているが、左心房はそれに合わせた基礎的な拍動をせず、あたかも痙攣しているような動きになってしまう状態です。
十分なデータがあるとは言えないと思うのですが、30秒以上その心房細動状態が続くと血栓が生じる可能性が出てくる、と解説している医師もいます。
ただ、いくら左心房が正常に拍動していないからと言って、左心室は正常に拍動しているわけです。
心室、心房の内容積差からすれば、仮に左心房が正常に拍動をしていないからといって、血栓が生じるほど血流が滞るということは、極めて考えにくいことです。
こういった物理的検討に必要な数値というのは、現代医学では数値化されていることが少ないように思われるのですが、ある、臨床検査の基準数値表のような文献で見つけることができました。(数値はいずれも男性のものです)
他では全く見つけられなかったので、この数値を基準としますが、左心の血液拍出量は、従来の生理学書の記載と同様、標準値は60ml となっており、左心房の最大容積量は42ml ±14、最小容積は20ml±9、となっています。
つまり、心室1拍動当りでは、心房の1拍動当りの血液量の3倍量が流れていることになります。
この数値だけで見れば、当然、左心房にいったん溜められることなく、肺動脈からダイレクトに心室に流れ込む血液は、左心房容積の2倍量存在することになります。
肺静脈から左心室に流れ込んでくる血液の、1/3量は瞬間ではありますが一度左心房に留まることになるが、残りの2/3量は左心房には一瞬も留まることなく、左心房を通過して左心室に進入するということです。
一般的に、血液のようにそれなりの粘性を伴う流体で考えれば、いくら、左心耳のように、ちょっと奥まった位置にあり、筋があるような特殊な形状(写真参照)をしているからといって、そこで大きな血栓を生じるなどということは、極めて考えにくいことなのです。
内燃機関の潤滑油(エンジンオイル)も、それなりの粘性がありますが、とくに高度な設計をしなくても、一部に滞留してスラッジ化してしまう、などということは聞いたことがありません。
長期間オイル交換をしない場合は、その限りではありませんが。
ということは、左心房がいくら正常な拍動をしないからといって、血栓を形成するほど留まり続けるということは、少なくとも、心房、心室内の一瞬も休むことなく生じる血流を考えると、下肢静脈で生じる血栓の形成機序とは全く異なるはずで、極めて考えにくいということになります。
むしろ、別な部位で発生してしまった危険な血栓を、左心耳という特殊な役割を持った部分に留めておいてくれている、と考えることの方がよほど自然ではないかと思います。
『血栓キャッチャー』ということです。
血栓が生じる恐れがあるほど血流が滞る可能性があるのは、肺内の血管である肺静脈である、と考えた方がずっと合理的ではないでしょうか?
この血栓が生じる部位、原因等の研究は、下肢静脈で発生した血栓が血管から遊離して、肺に流れていき、肺血管内で詰まってしまうという病状(エコノミークラス症候群)ではそれなりに研究がなされていますが、他の部分で生じる血栓については、十分に研究されているとは言えないように思われます。
肺でガス交換を済ませた後、徐々に血管(肺内静脈)が太くなっていき、最終的には左心房に到達する訳ですが、心房に近づくにしたがって徐々に太くなり、その部分の血流にも、心臓の拍動(吸引)による脈動は発生しているものと思われますが、その太い静脈血管(肺から左心房へ血液を送る血管)には緩衝機能も持たせていると思われます。
つまり、容積的に余裕があって、急激な心拍数の変化等が起こっても肺胞に過大な陰圧発生を防ぐために、相当な容積変化を容認する構造になっていると考えられますので、下肢静脈と同様血栓を生じる可能性は十分にあるのではないかと考えられるのです。
解りやすく言葉を換えて説明すると、肺静脈も静脈ですから、主要動脈血管とは異なり、変形しやすい構造になっているはずだ、相応の柔軟性を有するはずだということです。
そこら辺りについて詳述されている生理学書、論文等が見当たりませんので、私の推察ということにはなりますが。
肺静脈内で血栓を生じる機序
この問題を明確に説明できれば、ノーベル医学賞ものだと思いますが、残念ながらまだ完全な説明ができる研究者はいないようですし、もちろん私自身もまだ十分な仮説の構築はできていません。
というより、肺動脈における血栓生成の可能性を論じている学者も、いないか、有ってもまったく注目されていないと思われるので、文献も見つけることが出来ない、というのが実情です。
ガンと同様、単純に長生きをする人が増えたから発症者が増えた、ということも考えられない訳ではありませんし、40歳強という平均寿命(西式健康法公表時点=昭和2年=1927年)であれば、多くの場合問題にならなかっただけ、ということもまったく考えられない訳ではありません。
不整脈が大元の原因であったとする、脳梗塞の発症は40~50歳代が多いとされていますので。
ワーファリンについて
ワーファリンは経口抗凝固剤というのが分類名ですが、俗に言うところの血液サラサラ薬のひとつです。
ワーファリンの効果は最低でも2日間、服用量、途中の飲食物によっては3日間程度効果が持続しますから、極めて軽度な脳挫傷(本来なら絶対に生命に関わることがない、後遺症の心配すらもまったく不要な程度の頭部打撲)であったとしても、なにしろ出血が止まりませんから大事に至ることが珍しくないのです。
安全な服用法として、絶対に頭部強打をしない、というのが服用時における最低限の条件となりますが、もちろん、怪我を予定に組み込んでいる人など居る訳もありませんし、せいぜい、危険なスポーツ等は避ける、というくらいのことしかできないでしょう。
それでも、左心耳における血栓発生が避けられないものであり、ワーファリンが明らかに有効である、ということが確実であるなら、服用も検討すべきかも知れませんが、いずれも証拠不十分であり、刑事事件であればさすがの日本の地裁判事であっても、逮捕状は発給しないであろうというレベルです。
左心耳と大動脈弓
解剖学を知っている人でないと、今説明した「左心耳」も「大動脈弓」も聞いたことがない用語かも知れません。
大動脈弓とは、左心室から1本だけ出ている太い動脈血管でして、上半身系の主要動脈が分岐する部分(主管は下行大動脈として、腹部へ向かい、また順次分岐)なのですが、これには全人類共通の配管パターンは無くて、分岐の仕方には何通りかあります。
左心耳も同様でして、一応4パターンが報告されているのだそうです。
左心耳の形には、「鶏の羽型」(48%)、「サボテン型」(30%)、「吹き流し型」(19%)、「カリフラワー型」(3%)という比率であるとのことです。
なにか、日本の医学用語としては非常におさまりが悪いのですが、英語の直訳なのだそうです。
日本における研究がほとんどなされていないか、著しく遅れている証左であると言えるかも知れません。
4パターンあるということは、進化の過程において、まだ生物としての生残率を向上させるための理想的形態が定まっていない、ということです。
この程度の総血液量で、個体差は大きいですが、高低差140~200cm(直立時の足裏から頭頂部まで)の循環を達成している生物など他にはおりませんから、一部ではあっても、他の哺乳類には見られないような特異な形態を持っていたとしても驚くには値しません。
進化途上の人類は、これから、何十万年あるいは何百万年かけて、自然に淘汰されて、最終的形態に収束していくことになるということであろうと思われます。
そういう現実が存在するということは、何らかの目的、存在理由を有する器官であるということの、有力な証拠であると言えるのではないかと思います。
なお、現在判明している医学統計によると、“鳥の羽根型”が塞栓症リスクは最も低く、カリフラワー型の塞栓症リスクが最も高い、とされているそうですので、すでに淘汰はかなり進んでいる、ということになりそうです。
せめて、こういった形態の違いをMRI等で確認して、カリフラワー形であれば抗凝固剤を処方する、といったようなことであれば、仮にその医学処置は結果的に誤りであったとしても、それなりに筋は通っているということになります。
しかしながら、そういったことはまったく無視して、それらの処方、術式を行っているのだとすれば、60年前くらいまでの常識であった、死にそうになったらとにかく「カンフル」といった手法と同じであって、近代西洋医学というものは、科学の名には値しない学問分野、ということになってしまいます。
結語
まだまだ未解明の部分も多く、存在部位の違いによる、血栓の発生原因、発生など十分に、解明されていないのに、「血液をサラサラにするお薬も出しておきますからね」などと、危険極まりない薬品を安直に処方する、などということは許されないことであると考えます。
今後、ワーファリンを処方される人は、ますます増加すると考えられるのですが、もし医師に処方されそうになったら「私の左心耳は、何型ですか?」と尋ねてみてください。
それに即答できなければ、申し訳ないけれども、製薬会社に資金提供を受けている適当学者(もちろん良い意味ではありません。念のため)の論文、実際はそれを紹介してくれた製薬会社の営業マンに言われたままの処方をする、テキトウ医師だ、ということになります。
この問題には、まだまだ、言及すべきことが多々あります。
西式的発想で『血栓形成』を予防することができるのか?どのような療法を実施すべきであるのか?等々ですが、私自身まだ、絞り切れてはいませんので、また後日論じさせていただきます。
それでも、取り敢えず申し上げられることは、「水を十分に飲む」という西式の基本さえ守っていれば、かなり有効である、ということだけは断言できます。
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