花粉症はガン予防免疫活性化?
この話題は、多くの方々がいろいろなニュース等でご覧になったのではないかと思いますが、一応概略をご紹介します。
YouTubeでも簡易版としてリリース済みですから、そちらもご覧いただければ幸いです。
さて、その研究報告をしたのは中川恵一という、東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授という肩書の方です。
放射線医学とも言うようですが、ガン治療の一環としての放射線治療の専門家であって、もちろん指導的な立場についておられる方です。
国立大学の教員の定年は、現在60~65歳の選択定年制ということになっているのだそうですが、下がつかえているからでしょうか、教授にはなれなかったからなのか、60歳になった年の最初の3月31日付けで退官されて、特任教授に就任なさったようです。大学教員における、『契約社員』的なお立場です。
なぜ、このように細かい肩書をご紹介しているかと言いますと、放射線科の医師、研究者は意外と広く、深く広範な研究をしている方が多いからです。
体力的にも時間的にも、臨床系医師の中では比較的余裕があるようですし、その中でも皮膚科とか眼科ではなく、放射線科を選ぶという動機が、やはり未解明な部分が多い分野に興味を持つ医師、という印象を私が持っているからです。
賛否両論があるかも知れませんが、2年程前に亡くなった近藤誠医師なども、私の分類ではこの範疇に入ります。
具体的な報告内容
命がかかった状態では痛みを感じないといった現象、例えば包丁などの刃物で襲われた人の多くは、刃物の刃自体をつかんで被害を最小にする、つまり、頭頚部、胴体部の損傷を防ごうと本能的に振る舞います。
指が切断されてしまうこともあるようですが、そんなことは構っていられない訳で、生命を守ることが最優先ですから、そういった行動を無意識に取る訳です。
指が切断寸前まで損傷しても、痛みを感じてしまったら生命を守り切れませんから、痛覚を一時的に遮断するということができるようになっているのです。
生命に関係のない損傷、例えば調理中に包丁でちょっと指先を切ったようなときには、誰でも大騒ぎする訳ですが、それは生命には影響がないという認識があるからです。
それと同じことで、より重大な、生命にかかわる事態が進行中であり、自覚症状はないけれども、体内でがん細胞の増殖を抑えきれなくなったような場合には、他に困ったこと、花粉症の諸症状のような不快、苦痛を受けることがあったとしても、免疫反応の向上、強化に的な現象が起きたとしても、何の矛盾もないということです。
自然界では起こり得ない特定花粉の大量発生
自然な生体の反応であるなら、なぜ?人体は進化の過程でそれを織り込むことが出来ず、このような不快感が生じるようになってしまったのかということを疑問に思われる方もいらっしゃるかと思います。
もちろん、それは自然の植物生態系を無視し、経済のみを考えた『植林』が原因であると考えられます。
戦後の植林では、スギとヒノキが圧倒的主力というより、ほとんどがその2種であったようで、大規模な自然の雑木林はなくなってしまったような感じがあります。
ですから、人類進化の途中では経験したことのない、特定植物の花粉濃度となってしまったことが原因でしょう。
そのため、免疫反応の強度を調整する余裕などなく、とにかく全力運転といったことで、異物タンパク質の体内流入を防ぐ、というモードになってしまうものと考えられます。
そこで、次の段階として、各種薬剤でアレルギー反応を抑えることが良いことかどうか、ということに関心は移ります。
症状を抑えてしまったために、ガン抑制作用まで低下させてしまうものなのか、逆に無用なアレルギー反応を抑制したことによって、がん抑制作用が強化されるのか、もちろん、いずれの場合でもがん抑制などにはまったく関係はない、という可能性も十分にあります。
仮設の上に仮説を重ねるという手法は、科学的には大変好ましくないことではありますが、それを承知の上で話を進めますと、抗アレルギー反応薬として主流である、抗ヒスタミン剤の薬理作用から見てみましょう。
ヒスタミンとは何か
その前に、「ヒスタミン」とは何か?ということですが、多くの文献がアレルギー作用の元凶、気管支喘息の原因物質、胃酸の過剰分泌促進などといったような文献で、弁護のしようもない『悪者』という解釈が多数派を占めます。
もっとも、何百万年もの間、進化し続けてきた高等哺乳類の仕組み、構造の中でそのような厄介者の存在を許してきたとはとても考えられない、ということからヒスタミンの研究をしている学者も存在します。
例えば、胃潰瘍の原因の多くは、胃酸の過剰分泌あるいは、その他胃内粘液分泌不足ということになろうかと思いますが、だからと言って、胃酸の分泌腺を切除しようとはだれも考えません。消化、吸収にとって重要な役割を有する分泌液だからです。
将来の乳がんを恐れて乳房の事前切除(女優のアンジェリーナ・ジョリーは行ったということですが)はしませんし、胃潰瘍、胃がんを恐れて胃の切除をしようと考える人はいないように、確かに、疾病の原因にもなるけれども、重要な役割も判っているから、そういう乱暴なことはしないということです。
その人類が、単なる有害物質を細胞内に備蓄する仕組みを許容していたり、複数のヒト細胞がヒスタミンの合成を行っているという事実からして、何かの役割は担っているに違いない、今のところ、表面的な悪業ばかりが目立ってはいるが、きっと良い働きもしているに違いない、という発想を持つのは極めて自然なことです。
ヒスタミンは、細胞表面の抗体に抗原が結合するなどの外部刺激により細胞外へ一過的に放出されることによって、血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの薬理作用を起こし、アレルギー反応や炎症の発現の介在物質として働く。ヒスタミンが過剰に分泌されると、ヒスタミン1型受容体(H1受容体)というタンパク質と結合して、蕁麻疹やアレルギー性疾患の原因となる。(日本語版ウィキペディアより抜粋、引用)
といった好ましくない反応を起こすだけの物質として、日本版ウィキペディアにも紹介されていますが、一方で『様々な生理反応の初期メッセンジャー』としての可能性が研究、探求されている、ということになります。
抗ヒスタミン剤の薬理作用
抗ヒスタミン剤には、大きく分けて2種類存在するのだそうですが、いずれも基本的な薬理作用は共通しています。ヒスタミンを合成する途中の段階で、途中物質の生成を担う相手物質に先に結合させて、目的物質の生成を妨害する作用の拮抗薬とのことです。
副作用(眠くなる他)が比較的強い第1世代の抗ヒスタミン剤と、その副作用を減少させた第2世代の薬剤があるとのことですが、基本的な薬理作用は変わらない、ということです。
そうなりますと、抗ヒスタミン剤を服用し、ヒスタミンの合成を阻害するということですから、アレルギー症状も抑えられるけれども、ヒスタミンの生成量も確実に減少するということになります。
つまり、ヒスタミンの役割を相当程度解明できれば、その是非の判断もできることになります。
ヒスタミンの働き
まだ、未解明な部分も多く、確実な情報ではないということをご承知いただいたうえで、お読みいただきたいのですが、一般的に認められている作用としては、放出されたヒスタミンにより、血管拡張、発赤、発熱、腫脹、疼痛が引き起こされ、その炎症反応によって、その部位に他の免疫細胞やタンパク質等が集まり、細胞および組織の損傷回復が促進される、といったことが言われています。
その他の働きとして、ここからは、そういう説もあるという内容ですが、ヒスタミンやその前駆物質であるヒスチジンの働きによって、がん、骨粗しょう症になり難く、また、傷の治りを早め、動脈硬化になり難くし、アルツハイマーにもなり難い等々といった、万能的な働きがあるとのことで、実際にアトピーの人にはがんが少ない、という統計的事実もあるとのことです。
一般的には、そんな万能薬的な成分がある訳ないだろう、と思いがちですが、ヒスタミン類が身体の諸状態に対して直接的に作用をするのではなく、全方位的な免疫体制の発動を指令する命令伝達物質のような成分、と考えるならば、万病に有効であるように見えたとしても矛盾はありません。
そのような成分、物質であると仮定すると、というよりそれは間違いのないことのようなのですが、抗ヒスタミン剤を用いてヒスタミンの合成を阻害することは、免疫反応の発現を遅延させ、免疫力を低下させることが予想されます。
薬で抑えることは百害あって一利しかない?
この辺りが難しいところす。例えば大きな外傷を負った場合、当然患部には強い痛みがある訳で、あまりの痛みに睡眠すらなかなか取れない、ということもあるかと思われます。
そういった場合には、やはり鎮痛剤を使わざるを得ない訳ですが、『痛み』という感覚を麻酔薬や鎮痛剤で痛覚を遮断したり、若しくは感度を低下させた場合、傷そのものの回復が若干遅れる可能性は否定しきれませんが、それではウンウンうなるくらいの苦しい思いをすれば、傷の治り加減が全然違う、きれいに早く治るなどということもありません。
外傷からの損傷回復などは、極めて原始的な反応とも言えますから、神経機能も動員して全身の全能力を動員した方が、治癒力そのものは相応に強化されるとは思われますが、辛い痛みを我慢し続けることに見合うほどの見返りはない、と言えるでしょう。
つまり、そういった薬剤も適切に用いれば、重大な害を受けることもないけれども、通常の睡眠を得られることによって、交感神経亢進を抑えられる、といった、もともと外傷の修復に適した副交感神経の優位状態を維持することもできます。
ですから、難しく考えることもないとも言えますが、先日YouTubeでお話させていただいた『アセトアミノフェンの副作用』問題と同じで、しばしばアレルギーが出るから、必ずこの季節になると花粉症が出るから、と、予防的に服用しておこう、といった使い方をすると、自然治癒能力の一部を抑制してしまう可能性があるのは確実です。
できるだけ、薬剤は使わずに、それでも我慢の限界に近付いたら、用法容量を守った使い方をする、ということが大切です。
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