背腹運動は、西式健康法においても中心的な、もっとも重要な運動です。具体的な実施法は六大法則の解説をご一読いただきたいと思いますが、いくつかの重要な内容について追加説明をさせていただきます。
本ホームページの「六大法則」中の「背腹運動」の項目で解説している内容は、背腹運動の目的、意義のうち他の項目とのボリューム、バランスの関係で必ずしもその全容を説明し切れていません。
近いうちに「六大法則」の項は改訂版と差し替えさせていただく予定ですが、とりあえず補足説明ということで、説明をしていきます。
具体的実行法の追加説明
背腹運動とは、脊柱を左右に振る「左右揺振」と腹部を動かす「腹部運動」を同時に行う運動であるから、「背腹運動」と命名されました。
脊柱を振る動作は、自身がメトロノームの針になったつもりで、左右均等に原則として1分間に50~55往復の速さで振ります。メトロノームを使えば正確にペースを知ることができます。
規定のペースで実施しますと、実際は脊柱はややしなるような動きになりますが、故意に脊柱をくねくね曲げては絶対にいけません。実施する場合の心構えとしては、あくまで「脊柱は1本の棒」というつもりで実施してください。。
腹部運動は、腹部を出し入れすると表現されていますが、腹部を押し出すというイメージで実施すると、左右揺振動作にギクシャクするようなおかしな動きが出やすいので、お腹は引っ込める、ということだけを意識して実施したほうが良いでしょう。
お腹の引っ込め方はご自身のやり易いよう、好きなように行えばよいのですが、一般的には脊柱が直立状態になった時に引っ込めるという方法が実施しやすいものと思われます。
背腹運動の最大の目的は、脊椎骨同士の不整接合とでも言いましょうか,俗に言う「背柱の歪み」を矯正することにあります。なお、脊柱の歪みとはS字型にカーブした側湾症様の状態を言ってるのではなく、どこか特定(複数個所の場合もあります)の椎骨が傾いていたり、やや捻じれるように変位している状態のことです。
脊柱を相応の速度で左右に揺振すると、脊椎骨一つ一つに横ズレ方向の力が作用するのですが、その横ズレの力が、脊柱の歪みの原因である、椎骨間を結合させている靭帯組織の余計な癒着、固着を剥がしてくれる、解いてくれるということです。
酸塩基平衡と自律神経
また、学祖晩年の著作においては、体液の酸塩基を平衡状態に導くため、というようなことが主たる目的であると表現された著作もあり、本ホームページの解説でもそのような解説もしておりますが、あくまで本来の最大の目的は脊柱の歪みを矯正することです。
一時期、西式健康法では今日の生理学的に基づけば「自律神経」の問題、つまり、交感神経、副交感神経亢進であったり、そのバランスの問題を、酸塩基のバランスの問題として説明しており、理論的にも混乱する原因となっていますが、西式で酸塩基と説明されている部分は、すべて次のように読み替えて読んでいただくと理解しやすいと思います。
体液が酸性に傾く=交感神経過剰亢進状態、体液がアルカリ性に傾く=副交感神経過剰亢進状態と読み替えてください。
左右揺振は規定の速度で実行するとかなりきつい筋肉運動ですから、交感神経は自然と亢進状態になります。交感神経が亢進すれば心拍数は上昇し、動脈血管は収縮して例えば血圧であれば上昇します。
また、交感神経亢進により、闘争、逃走モードに自動的に入りますから、痛覚は弱められるし、細胞の修復能力等は自然と弱められてしまいます。一方、副交感神経は沈静状態に導かれます。
脊柱の歪みを正すことは絶対に必要ではあるが、細胞修復能力等が減衰するということは、とくに病人にとっては好ましいことではありません。
そこで、副交感神経も同時に亢進させ、脊柱矯正動作である左右揺振の欠点(運動療法はすべてそうだと言えるのですが…)ともいえる、交感神経亢進を抑えるために腹部運動を同時に行うというわけです。
両神経は拮抗関係にある、つまり、交感神経が亢進すれば副交感神経は自然と沈静し、副交感神経が亢進すれば、交感神経は自然と沈静するという関係があるので、そういうことが可能となります。
次に、「腹部運動」つまり腹部の出し入れ動作を行うと、なぜ副交感亢進を亢進を起こせるのかということを説明します。
腹部運動の作用
別の機会により詳しく説明しようと思いますが、消化管には第3の自律神経系が存在します。
ここ20年ほどで定説になったと思われる比較的新しい学説ですが、原始的臓器である腸管には消化吸収のための独立した自律神経が存在し、人類であってもその自律神経系は機能しているという説です。その自律神経系は腸神経系と呼ばれることが一般的なようです。
考えてみれば当然のことであって、脳も心臓すらない生物であっても消化管による消化吸収、排泄作用は必ず行っているわけですから、指揮命令系統である何らかの神経系が存在するのは当たり前と言えば当たり前のことです。
その腸神経系を混乱させるために行うのが「腹部運動」です。自分の意思によって腹筋を動かし、腸管に混乱を与えるために行うことが目的です。
腸神経系は、原始的な消化吸収活動を無難に行うことはできても、腹筋を使って腹部の出し入れを行い、腸にとっては想定外の動きを与え続けて混乱を起させることを目的としています。
であるからこそ、お腹の動かし方はどうでも良い、とにかく各人が実行しやすいようにおこなえば良いとなっているわけです。
腸神経系はナマコでも持っている原始的な制御システムですから、想定外の事態に遭遇すると、盛んに脳に信号を送り続けます。「どうしたら良いのか?指示を請う」といった感じです。
それに対して、脳からは補正命令が出ることになりますが、相手が消化管ですから副交感神経を通じて次から次と補正のための指令信号を送り続けることになります。
生物神経は電気信号によって情報を伝達する仕組みですが、電線と比較して伝達速度が著しく低いものの、電線とは異なりビニール皮膜のような絶縁体は必要のない構造です。
絶縁体が存在しませんから、刺激を与え続けると隣接の神経にも電気信号は漏れて伝わることになりますから、次から次と隣接した本来は別の系統にまで、自動的に亢進状態が広がっていくことになります。
電気、電子製品ではこういったショート、漏電といった現象は致命的ともいえるトラブルということになるのですが、生体においては絶縁体を排除するという省スペース目的だけでなく、脳に過大な演算負担を軽減するためにもこういった自動システムを採用したものと思われます。
これが背腹運動の腹部運動の目的であり、難しい言葉で言えば作用機序ということになります。
良くなる、能くなる、善くなる
この背腹運動を実行しながら「良くなる、能くなる、善くなる」と唱えていると、本当にあらゆることが、良くなってくる、というのが背腹運動の効能ともいえるのですが、こういった内容については異論を唱える方々も多いことでしょう。
なんか宗教っぽくていやだ、であるとか、そんなことで健康になれると主張するなら一部の怪しげな新興宗教と同じではないか、とても信用できん、とお考えになる方もいらっしゃることでしょう。
学祖西勝造は、このことについて、交感、副交感両神経がともに亢進して拮抗した状態になると暗示が入りやすいから、背腹運動実施中に唱えると良いとしています。
これらの行為といいましょうか動作は西式健康法だけでなく、イスラム教徒は確実に日常的に行っていますし、ユダヤ教徒もほぼ同じような行為、動作をする習慣が存在すると聞いています。
イスラム教徒であればコーランを少しでも早く習得、暗唱することができるようになるための、一種暗記法として実践されています。
西式とは異なり正座ではありませんが、原則として胡坐を組んで同じように上体を左右に揺すりながら、コーランを音読するのです。
なお、一部海洋に面した地域では上体を前後に揺る動作として伝わった地域もあります。
科学的には説明し切れませんが、イスラム教では少なくとも1600年以上前から、背腹運動のようなことを早く暗記するために行ってきたわけですし、ユダヤ教も同じということになれば、その歴史は二千数百年ということになります。
彼らは経験的にその事実を知ったし、学祖西勝造は、交感、副交感両神経がともに亢進した状態になると、暗示が入りやすくなる、刷り込みやすくなるという仮説を提唱したということです。
良くなる、能くなる、善くなる、というイメージを効率よく深層心理、潜在意識に刷り込むことができれば、人類最大の欠点でもある取り越し苦労、先々のことを心配して思い悩み不安な気持ちに支配され、無意識に交感神経を亢進させてしまうという現象、問題を緩和してくれることを期待しています。
なお、そういう理由ですから、「良能善」という言葉、文字にこだわる必要はありません。その文言を選んだのは、特定の言葉、例えば心の平静が得られ、交感神経亢進を鎮めてやることができるのなら「南無阿弥陀仏」等と唱えても一向に構わないわけです。
ところが、そういった文言を指定してしまうと、法華経を信仰している方々はただその文言であるが故にご縁ができないといったことでは、お互いあまりにも残念であり惜しいということから、当たり障りのない無難な言葉を選んだとものと考えられます。
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