気象病?
最近熱中症とともによく話題に出るのが『気象病』です。気圧の低下によって、頭痛、肩こり、関節痛、筋肉痛といった、不定愁訴的な症状が現れることを『気象病』と称しているようです。
気象病に詳しいということで、医師がテレビ番組に出演していましたが、その主張は以下のようなことでした。
主たる原因は『自律神経の失調』であり、その原因は、気候変動の激しい時期には、交感神経優位、副交感神経優位の切り替わりが激しくなるので、自律神経が疲労して、例えば十分な体温調整が出来なくなる、と解説していました。
その程度のことで、自律神経が不調になるような生物は、生き延びてこられた訳がないと思いますし、いつものセリフですが、とっくに絶滅しているはずです。
野生の世界では、その程度のことどころか、ほとんどの生物は絶え間なく生命を狙われている状況ですから、数日で強度の『自律神経失調』に陥ってしまうことでしょう。
『慢性腎臓病』が、新しい病気の概念として登場したのが2004年だと思いましたが、最近の医学界は、新しい病気を創り出しては、治療対象者を増やし、売上増を図るというビジネスモデルを確立したかのように思えてしまいます。
その主導権は、医師ではなく製薬メーカーが握っているのかもしれません。
気象病の原因は?前述の医師によると…
もっぱら気象病の研究・治療を行っているとされる臨床医によりますと、基本的には『自律神経失調症』であり、さらにその誘因現象として『気圧の変動(低下)』、『気温の急激な変動』、『湿度の上昇』といったことをあげています。
そして、それがどのような機序、つまり生理学的にどのような影響を与えた結果として症状が出るのか?といったことについては、明確にはされていません。
それらの問題については、その著書中で以下のように述べています。なお、それらすべての仮説がご本人のお考えなのか、他の医師等の仮説を紹介したものであるのかは不明です。
一、気温の変化が激しいと、自律神経は体を温めた方が良いのか、冷ました方が良いのか、そのために血管は広げた方が良いのか、収縮させた方が良いのかなどをいろいろと調整しているうちにバランスを崩す。
二、気圧の変動を感じると、内耳が過敏になり痛み信号が増強される。
三、気圧の変動により、身体内部の小空洞や体液類が、身体内外の気圧差で影響を受け、血管内の血液成分が血管外に漏出して外側の細胞に移行し浮腫を生じる。浮腫が神経を圧迫して痛みが生じる。
その他にも、いろいろと可能性がある仮説を紹介しているのかもしれませんが、この三つの解説だけ読んでも、ああこんなものか、理論的にはからきしだな、という結論を出すことができます。
「一」に関して言えば、前述の通り、この程度のことで自律神経の調整がおかしくなるような生物は、野生の世界では生存不能です。
『一難去って、また一難』状態になると、自律神経が変調を起こして脳貧血さえ起こしかねないという、生物としては致命的な欠陥と言えます。
「二」はあり得ることです。生物の神経組織には絶縁体がなく、神経繊維が密集したところでは、強い信号が出ると周囲の神経細胞にまで電気信号がリークしますから、痛くもない他の部分でも痛覚を感じる(神経痛)ということは十分にあり得ることです。
ただ、脊椎を通らない内耳の神経に対する圧迫等が、例えば膝周辺の神経にまで誤った痛覚信号を出すということは考えられません。あったとしても、近接組織にしか生じないはずです。
「三」.は冗談?
「三、」に関しては、笑っちゃ悪いけど笑ってしまう、といった仮説です。身体内の小空洞とは鼻腔や内耳のことを言っているようなのですが、鼻腔は外気と完全に通じていますから、外気圧の変動に即時に連動します。つまり内外の気圧差というものは存在しません。
つまり、影響が出ることはまったくありません。内耳はご承知の通り、完全に外気と通じている訳ではありませんから、急激な気圧の変化を感じますが、それでも『耳管』という管で鼻腔、つまり大気と通じています。
多少時間はかかりますが、例えば『耳抜き』といったことをすれば瞬時に同じ気圧に落ち着きます。
人類が各種発明によって、本来の能力だけでは絶対に受けることのない、急激な気圧変動(航空機や超高層ビルのエレベーター)には適応しきれませんが、文明のお陰でそれも体験できるようになったということです。
竜巻に巻き込まれたりしない限り、生物がこれほど急激な気圧変動(急減圧)を受けるということは、自然界では起こりえないことですから、十分には適応できないのです
しかし、逆の言い方をすれば、気圧変動が原因となって、長時間にわたる影響を受けることもない、ということでもあります。
であるからこそ、確実な証明も否定も困難な『自律神経失調』を原因にするしかないのでしょう。
『血管内の血液成分が血管外に漏出』?
という文言もまったく意味不明と言うしかありません。毛細血管であれば、血管内の血液の成分のうち、一部血球成分(主として赤血球)を除いた液を組織内(血管外)に漏出させるのが役割です。
それによって各細胞に栄養、酸素を供給します。
もし、毛細血管ではなく、細動脈から血液が漏出するということなら、明確な内出血であり、かなり深刻な状況であって、『気象病』などと眠たいことを言ってる場合ではありません。
さらに次の『血管内の血液成分が血管外に漏出して外側の細胞に移行し、浮腫を生じる。浮腫が神経を圧迫して痛みが生じる』も意味不明どころか、生理学的事実と明らかに異なります
まず申し上げなければならないことは、個々の細胞が膨れている状態は『浮腫』ではありません、と言うべきか、『浮腫』とは呼びません。
個々の細胞が膨れてしまう状態は、通常は炎症を伴って腫れているのであって、『浮腫』ではありません。『腫れ』とか「腫脹」と呼びます。
各種必要成分を溶解した状態で漏出した液体成分は、液体のまま細胞に『浸透圧勾配』によって、必要な分だけ自然に浸入する訳ですが、個々の細胞が必要以上の液体を吸い込むことによって、細胞自体が膨れる、腫脹することは絶対にありません。
この説を唱えている人は、ひょっとして『生理学』の単位はカンニングで取った?と思いたくなるほど、生理学を知らないということになります。
また、細胞間を満たしている液体(間質液)が増大しても、神経を圧迫して痛覚を感じることは絶対にありません。そういったことが起こったら困るから、そういう構造にはなっていない、ということなのです。
長時間の飛行機搭乗やバスに乗車することによって、はぼ確実に浮腫が進行しますが、それによって神経が圧迫されて痛みが発生する、などということは絶対起こりません。
そこで、無理やり、『近接細胞に液体が入りすぎて、細胞が膨れる(腫脹)から痛みが生じる』という仮説を強引に組み立てたということになります。
細胞の一つ一つが膨らんでしまった『腫れ』の場合には、痛みを生じることが多いですから、生理学的にはあり得ない現象であっても、細胞の一つ一つが膨れていてくれなくては困る、仮説が成立しないということなのでしょう。
ずいぶんと、乱暴で強引な理論展開です。
これでは、「神様の怒りに触れて罰を受けた」という解説と同じレベルの説明であって、科学性は“ゼロ”ということです。
現実の問題から検討すると
気圧が下がるだけで頭痛が起こるなら、飛行機には乗れません。高度1万メートルを飛行する航空機の気圧は、800hPa 台前半です。
以前に私が機内にポータブルの気圧計を持ち込んで測定したときには、高度1万1千メートルで820hPaでした。
これは、富士山の5合目より少し低い標高の気圧です。標高としては海抜2,300m前後です。
もちろん航空機に乗ると、そういった『気象病』の主徴と同じ、不定愁訴を訴える人はいるそうですが、多くの人に生じる現象ではありませんから、単純な物理現象によって生じる感覚、痛覚、不快感ではないということです。
その点が航空機等の離陸後上昇中、または降下中に感じる内耳への圧迫感とは、根本的に異なるところです。
中には、気圧が下がると『脳動脈が膨らんで痛みを感じる』という解説をしている医師をテレビ番組で視ましたが、申し訳ないけど「この人、バカ?」と言いたくなりました。
人体内部のような、実質的には閉鎖系の構造物で、外気とは直接連絡していないにも関わらず、外気圧のわずかな変化で内部構造に変形が生じるなどということがあると思っているのでしょうか?
もし、このようなことが現実に起こるとしたら、スキューバーダイビングをすると脳動脈は著しく収縮して、ほぼ全員が脳梗塞の症状を呈することになる、ということになるはずです。
エベレストに登頂した人など、脳動脈瘤がなくてもほぼ全員の脳動脈血管が破裂してしまうでしょう。
航空機内はなぜ気圧が低い?
機内空気圧をなぜ地上と同じにしないのかと言うと、機体の耐久性を向上させるためです。内外の圧力差が大きいとそれだけ、機体の膨張率が大きくなってしまいます。
内圧が高いまま気圧の低い上空に上がると、機体の膨らみが大きくなり、地上に戻ると通常の大気圧を受けて元に戻るわけですが、この膨らんだり、縮んだりの繰り返しが金属疲労による機体の脆弱化を早めますので、機内を大気圧に維持しておくことはできません。
機体の耐久性向上と、低圧による体調不良者がほとんど出なくて済む、絶妙な妥協点が、高度2,300m ~ 2,500m 高度相当の気圧なのです。
ポイントは湿度
気象病とされる諸症状が発生する原因は、『湿度』にあると考えるのが一番妥当でしょう。
旅客機の機内は前述の通り地上よりは2割ほど低い気圧にコントルールされています。ただし、湿度はかなり低くなっています。
これは、私自身は直接測定したことはないのですが、おおよそ旅客機内の湿度は5~10%とされています。これはサハラ砂漠の平均湿度(約30%)よりもかなり低いのだそうです。
これも、蛇足知識ですが、飛行機という乗り物は上空では常に暖房しています。
大昔のレシプロエンジン・プロペラ旅客機の暖房装置の仕組みは知りません(多分エンジン冷却空気の一部を機内に導入しているのでしょう)が、ターボプロップエンジン(YS-11等)やジェットエンジン旅客機は、圧縮した高温の空気を暖房に利用しています。
高度1万メートルの外気温はマイナス40℃~50℃ですから、外気を直接導入していたら乗員、乗客とも全員短時間で凍死してしまいます。
ジェットエンジンのタービンで圧縮、加熱した空気の一部を機内に導入して温度を維持しているのです。
と言っても、暖房用にわざわざ空気を圧縮している訳ではなく、ジェットエンジンの構造的な事情です。
ジェットエンジンは、圧縮して高温になった空気にジェット燃料(水分含有量等を極端に減らした灯油が主流)を噴射して自然着火させ、爆発的燃焼を起こさせて推進力を得るという構造です。
旅客機内では、機種によっても異なりますが、個別に調整可能な空気の吹き出し口があり、そこからはいつも冷たく感じる空気が出てきていますから、何となく常に冷房されているような感じがしますが、実際は常に強い暖房をしているという訳です
つまり、もともと高空に存在していて、絶対的に水分含有量が少ない空気をさらにジェットエンジンのタービンで圧縮、加熱するのですから、その加熱空気の湿度は極端に低くなるという訳です。
なお、関連情報を調べてみましたら、最新型のボーイング787型機やエアバスA-350型機は、構造は知りませんが室内加湿をしているそうです。
それでも、加湿用に大量の水を積載する訳にはいかない(旅客機内は空気の換気量が非常に多いので)からでしょう、せいぜいその湿度は20%程度だそうです。
つまり航空機内でほとんど『気象病』に該当する症状が問題にならないのは、気圧はかなり低いものの、湿度は低いからではないかと考えられます。
もちろん、温度的には快適温度帯であり、体温調整のために自律神経が忙しくなる、という状況もない訳ですが、前述の通り、頻繁で過度な体温調整による『自律神経疲弊・失調』という状態は、生存競争を生き抜いてきた生物に対しては想定出来ません。
湿度が高いと何が起きる?
湿度が高いと、皮膚表面からの発汗効率は著しく低下します。ここからは異論がある方も出るかと思いますが、かねてから繰り返し申し上げておりますように、ヒトの異常なまでの発汗能力、汗腺の発達は体温の調整だけが目的であるはずがありません。
植物同様、汗腺からの蒸散作用を末梢の血液吸引に利用するため、としか考えられないのです。
ほとんどの獣類は、体温調整のための汗腺(エクリン汗腺)を有していませんが、熱中症でバタバタ倒れることはありません。
イヌなどと比較して、ヒトの方が高温度環境に対する耐性が高いのは事実ですが、ゴリラ等の高等猿類も、体温調整のためのエクリン汗腺はほとんど備えていません。
ゴリラは、炎天下で農作業を行う訳ではありませんが、どんなに暑い日であっても、湿度が高くても、日陰で過ごしていれば熱中症になることはありません。
湿度が高いから、発汗効率が低下する=末梢循環の完全な状態を維持できない、神経細胞にも十分な電気信号発生のためのイオン補充が完全でなくなる、といったことが、神経痛や古傷の痛みが再現される原因と考えるしかないのです。
頭痛に関しては、必ずしも十分な説明は難しいのですが、汗の蒸散効率が低下すると、玉の汗、つまり蒸散がスムーズにいきませんから、十分な熱放散ができなくなります。
そういう状況でも体温維持をしなければなりませんから、同じ熱放散量を確保するためにも、水の消費量(汗としての排泄量)は増加します。
十分な水分摂取が出来ていれば、ほとんど問題にはならないはずですが、熱中症が起きそうな状況に近づいてくると、体温維持のために、ひとつひとつの細胞の超微量な予備水分はもちろん、大腸内容物の水分から、脳脊髄液までフル動員するようになっている、ということも再三申し上げてきました。
その結果、脳脊髄液が減少して、脳動脈血管が膨張することを許す=頭痛を感じる、という機序です。脳動脈血管には膨張すると痛み信号を発する痛覚神経が存在しますから。
血液粘性が高まって、血液の流れがどこかで、わずかでも滞るようなことがあったら生命に危険が及ぶことになります。
つまり、この『気象病』というものも、西式健康法の基本である「水を十分に飲む」ということで、基本的に解決できることであり、さらに自律神経も乱れていると、いう自覚があるのなら、この暖かい時期に是非温冷浴を始めていただきたいと思います。
なお、『生水』(溶存酸素量の多い水=非加熱が絶対条件)を飲むことによって、健全な腸内細菌叢を育成しやすくなる、ということも覚えておいてください。
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