
「時間栄養学」
以前にも、批判的立場からこの新しい分野の学問についてちょっとだけご紹介した記憶があります。どういった分野の学問なのかと言いますと、同じ物を食べるにしても、その摂取時間帯によって効果が異なってくるといったような、重箱の隅のごちそうのかけらを無理やりほじくり出して味わおうとするような、栄養学上の新分野だそうです。
すでにご紹介したのに、なぜまた改めてご紹介する気になったのかと言うと、この「時間栄養学」について、NHKの早朝ラジオ番組で紹介していたからです。
それだけならどうということもないのですが、何となく聞いていると、実質的には何の具体的な説明もなく、『ですから、朝食が一番重要です』というフレーズが出てきたのです。
そんなに集中して聞いていたわけではないのですが、番組の最終的結論として、どこから、どうすればそんな結論が出てくるのか理解不能なのですが、そんないい加減な話を天下のNHKが流すのであれば、これは何らかの反論をしない訳にはいかないなと、この問題について論述することになったという次第です。
まずは『NHK』の悪口から
私は以前から、ラジオのNHK第1放送は、はっきりっ言って、聴取する価値のないラジオ局だと思っています。
例えばウクライナ情勢やワクチンに関するような、最近の重要かつホットな情報を深く知りたければ、NHKラジオは全く役に立たず、ややもすると政治批判につながりかねないような話題となると、ほとんど取り上げないし、圧倒的に放送時間は短い、というのが現実です。
労働新聞、人民日報、タス通信に通ずるような、紛れもない日本政府のプロパガンダ放送局的なところが見受けられます。
NHKテレビの方ですが、かと思えば、一時は世界的にも脚光を浴びた健康食品であったが、その後の臨床試験で有効性が否定されてしまったものでも、NHKでは奇跡の成分が開発されつつある、といったニュアンスで番組化され、放送されることがあります。
これなど、すでにその成分を含有する健康食品が発売された後のことですから、NHKのプロデューサーの誰かが、健康食品業者に買収、供応された結果としか考えられない訳です。
これはNHKラジオに限定した話ですが、東京圏で言えば、十分な情報を得ようと思ったら、TBSラジオや文化放送を聴くしかなく、実質的国営放送は何の役にも立ちませし、いかがわしい情報を垂れ流すことも珍しくありません。
なお、ニッポン放送は私の居住地域では余り感度が良くないので、ほとんど聞くことがないものですから、評価は不能です。
NHKの悪口を言い始めると、際限が無くなりますが、正職員はエライ高級取りばかりだそうですが、取材費、制作費には最もお金をかけていないように見受けられます。
『深夜便アーカイブ』と称して、インタビュー番組は再放送がかなり多いですし、先日聴いていたら、名作短編小説の朗読を深夜に放送していましたが、原作者は宮沢賢治等すべて没後50年以上経過した著作権切れの作品を、NHKの局員アナウンサーに朗読させるという、制作費実質ゼロの番組を延々と放送していました。
これって、実質上、社内研修の録音を放送していることになります。
そのくせ、聴取率の高い時間帯には、例えばジャニーズの人気メンバーや人気お笑い芸人に何時間も任せっぱなし、といったようなことが現実です。大事件が進行中であってもです。
プロデューサーが、自分の子弟の結婚式にジャニーズタレントを呼ぶためのご縁造りのため?に、そういう企画ばかり立てているのでは、と疑いたくなるような番組編成です。
仮に聴取率は上がらなくても、スポンサーに気を使う必要はまったくない訳ですから、じっくりと政治問題、時事問題を扱う番組を放送するべきだと思うのですが、ほとんどやりません。
時々、深夜に国会中継の録音放送を流していますが、これはNHKの予算などに関する国会の審議で、そんなものはホームページに議事録を掲載すれば良いので、製作費のほとんどかからない番組を、深夜に延々と放送しているという具合です。
NHKテレビも、まともな討論番組は『日曜討論』だけですが、最近はほとんど野党幹部を出演させることもなくなって、テーマを担当する自民党の幹部と各方面の専門家と称する人しか出演させません。
このような配慮のお陰で、特に及第点をもらえるわけでもなかろうという『岸田内閣』が高支持率を得ているのかもしれません。
なお、私自身は、『NHKから国民を守る党』(これはもう旧称でしたか?)の党員でもなければ、同党の公認候補に投票したこともありませんが、心情的には賛同するところは多々あるということです。
本題の『時間栄養学』
余計な話題に文字数を使いすぎてしまいましたが、『時間栄養学』なる学問の発祥は、ドイツかフランスのようです。
比較的翻訳が容易な英語の文献はまったくと言って良いほど出てきませんので、オリジナル理論の正確なご紹介は困難です。
しかしながら、米英学者による、英語の文献が全くと言って良いほど出てこないということは、国際的には主流の考え方にはなっていない、という証である可能性は高いものと思われます。
日本では、柴田重信という九州大学の薬学部で助教授を勤めたのち、早稲田大学人間科学部教授などを経て、2003年より早稲田大学理工学術院教授、 薬学博士、と紹介されている学者が、その筋の権威としていろいろな場面に登場してきます。
正直に言わせてもらえば、この人だけ?といった感じです。
最近増加している『人間科学部』的な学部というのは、日本版ウィキペディアによれば、以下のように解説されています。
「人文学」が人間の作り上げてきた総合的な文化に関する学問であるとして、その諸文化を紡ぎ上げてきた人間自身を対象に生命科学、行動科学、生物学、人類学、社会学、心理学、教育学、哲学、看護学などの多種多様な学問領域を跨いで教育・研究する大学の教育課程である。
となっていますが、私には何をどういう手法で研究する学問分野であるのか、良く理解できません。
ただ、どういう訳かこの学部名を用いている学部の学習、研究の中心的分野として『栄養学』を挙げているところが多いようには思われます。
時間栄養学論文の一つをご紹介
新しい学問ですから、もともと、論文数は少ないようです。すぐに見つかったのが、これからご紹介する『タンパク質摂取時間と筋量増加の関係』という論文です。
筆頭執筆者は、長崎大学医歯薬学総合研究科神経機能学の青山晋也いう助教(旧称;助手)の方(元早稲田大学重点領域研究機構自席研究員)で、もちろん、その元指導教官として柴田重信教授も共同執筆者になっています。
論部の主たるテーマは、マウスを使った実験で、朝、夕2食飼育した場合には、朝食で多くのタンパク質を摂取させた方が、有意に筋量の増加が認められた、という内容です。
その結果から導いた結論として、ヒト高齢者も転倒防止などの観点から筋量の増大が好ましいが、朝食でタンパク質を多く摂った方が、つまり、朝食で充分な栄養(主としてタンパク質ということになる訳ですが)を摂ることが、好ましく、総合健康維持の面から有利である、といったような結論になっています。
そして、これらのことは、単なる摂取量だけでなく体内時計が関与しているので、ヒトに当てはめて推察すれば、『朝食が最も重要』という結論を導き出しています。
論文の問題点
論文の全文を入手したわけではありませんから、あまり断定的なことも言えないのですが、食性や睡眠パターンもヒトとはまったく異なるマウスに対して、無理やりヒトの標準パターン的な時間割で食事や睡眠時間を与えるという実験の結果を、ヒトにそのまま当てはめることができるのか?ということが一つ上げられます。
早稲田大学がホームページで発表している、この論文の紹介記事によれば
夜間勤務やシフトワーク、朝食欠食など体内時計を乱すような生活リズムの場合、朝食のタンパク質摂取による筋量増加の恩恵は受けにくい可能性も考えられます。また、追加検証は必要ですが、タンパク質の量だけでなく、摂取タイミングもうまく活用することで、筋力や筋量が低下しやすい高齢者の健康を効率よく維持・増進できるかもしれません。
実際の研究結果報告では、このようにかなり控えめな表現なのですが、NHKの番組中では、こういった慎重な言い回しではなく、単純に『朝食が一番重要』という言葉になって表現されてしまいます。
例えば、朝食を摂らないことが習慣になっているヒトであっても、朝食欠食が「体内時計を乱す」ことになるのか?といったことに対する言及すらありません。
こういうことは、少なくとも朝食を摂ることが生理学などの観点から正しいことで、かつ、ヒトにとって歴史的にも世界的な標準的パターンであったのかどうか?といったことが、最も重要な要素であるべきです。もちろん実際は異なります。
それらが確認、証明された後でなければ、何が体内時計を乱すことになるのかなどといったことは決められないはずで、それが曖昧なまま研究報告者が勝手に結論を決めて、その方向に導こうとする姿勢は、まさにプロパガンダであって、甚だしく科学性に欠けると言わざるを得ません。
論文自体は、例によって、今のところ英語版しか発表されていないようで、日本語版が見つかりません。全文は、とても翻訳してられませんが、止む無く一応印刷して、見出し的な内容だけはチェックしました。
たぶん、日本語の正式な論文を出したら、学会発表の時には質問の嵐で、発表者は壇上で立ち往生してしまうことになるでしょう。突っ込みどころの宝庫と言えるような穴だらけの論文ですから。
英語版だけであれば、海外の研究者にとっては、日本の連中がまた、訳の分からない意味不明な論文を発表した、というだけのことで、だれも質問書は送って来ないだろうし、内容的にお粗末すぎて真っ向から反論するような、もの好きな研究者も居ないでしょう。
世界的にも、全年齢に対する『朝食の重要性』などという研究論文等は、日本の学者以外には、ほとんど存在しないのではないかと思われます。
日本の学者や政府、農林省がいくら朝食を食べさせて、GDP値をかさ上げしよう企んでも、洋の東西を問わず、朝食が一番重要であるなどという主張は、日本特有のものです。
相変わらず、米国でさえ、朝はシリアルに牛乳を掛けるだけ、といったものが主流であり、トースト、卵、ソーセージなどという豪華メニューを、自宅で作って食べるようなことはほとんどなく、ダイナーやホテルの朝食メニューです。
米国のFDA(連邦食品医薬品局)も幼児、小児の朝食には、大人とは違う、前夜の残り物であったり、もっとタンパク、脂質も摂らせるべき、とは言っていますが、大人や高齢者向けではありません。
乳児が四六時中母乳摂取を必要としているように、発育途中ではこまめな栄養補給の方が効率は良い(身体的発育には有利)ということは事実です。
オリジナル論文の主張
論文の主張は、『体内時計と栄養摂取効率には相関関係が存在する。体内時計の混乱が栄養摂取効率を低下させる可能性が高い』といったような内容で、特に朝食を食べるべき、とはなっていないように見受けられる(それを匂わす記述はあります)のですが、大学が公表した概略紹介では以下のようになってしまいます。
『体内時計に合わせた朝のタンパク質摂取タイミングが筋量増加に効果的』となり、『今までは朝、昼、夕食といった時間別の摂取効率に関する研究はなかったので、画期的な研究であり、タンパク質の摂取タイミングが筋量増加に影響があることをこのたび明らかにした』となってしまいます。
突っ込みどころ
まず、基本的なこととして、マウスの運動量であるとか、もともとのマウスの通常の睡眠パターンについての記述がまったくありません。
つまり、多くのヒトのように16時間連続で起きていて、その後8時間連続で睡眠といったパターンをマウスにも強制して得た結果のようなのですが、どうやってその状態を再現したのか、覚せい剤成分を用いたのか、電気刺激で覚醒状態を維持させたのかといった、方法によってはマウスにとって極めて不自然な、非常に激しいストレスを与えた、極めて特殊な環境下における結果ということになります。
もともと、マウスの通常生活パターンを無視して、ヒトと同じパターンを何らかの刺激を使って強制していたのだとすれば、それがそのままヒトに適用できると考えるということはまったく許容できません。それこそ、マウスの体内時計は著しく乱れてしまうものと考えられます。
マウスの通常飼育時における睡眠パターンに関する文献を探しましたが、予想通り研究事例が沢山あるわけではありません。
ある文献によれば、通常の実験用に飼育しているマウスでは、一日の睡眠時間は11.5時間としている文献がありましたが、実際のところははっきりしません。
ただ、イヌ、ネコの睡眠パターンとある程度の共通性があるとすれば、連続で8時間とか11時間眠り続けるということは非常に考えにくいことです。
また、げっ歯目の食性としては、ヒトなどとは異なり、まとめ食いはほとんどせず、少しずつ、始終食べ続けるといったようなことが通常のようですし、好きなだけ餌を食べられるような環境下で飼育した場合に、1日2食といったパターンになる訳もありませんから、これを朝、夕2食に限定することも不自然なことです。
また、これも大きな問題ですが、飼育していた実験マウスの運動量についても、一切記述がありません。
好きなだけ、ホイールを回して運動ができる環境なのか、一切運動はさせないように何らかの拘束をしているものであるかも不明です。
筋肉の付き具合を比較するために、片足の筋肉の一部を切除するといったようなことは記述があるのですが。
各種条件の違いによって変わってしまう要素
論文の主旨は、朝食を食べると筋肉が付きやすいから、転倒事故を防ぐためにも朝食でたっぷりタンパク質を取った方が良い、というような主張なのですが、いくら経口たんぱく質摂取量を増やしたところで、自動的に筋肉が増強される訳がありません。
朝食を食べるだけで筋肉モリモリになれるものなら、朝食で多量のタンパク質を摂るだけで筋肉が発達するのであれば、大いにありがたいことですが、実際は筋肉を鍛える運動(筋トレ)も併せて行わない限り、筋肉が発達することは絶対にありません。
朝食でタンパク質を多めに摂るだけで、筋肉が付くのだとすればライザップにお金を払って通う人など一人もいないでしょう。
また、高齢女性でも、朝食に多くのたんぱく質を摂取したグループでは握力が向上した、といったことも紹介されていますが、もちろん対象がヒトですから、食事量はある程度決めた通りにコントロールできたとしても、日常的な筋肉の使い方を制限することは不可能ですから、この結果も正確であるとはとても言えないはずです。高齢女性を拘束具で縛って、運動量も同一条件にしたとでも言うのでしょうか。
この研究で何が判ったか
実は、オリジナル論文の最終的結論は極めて遠慮がちで、『朝食時のタンパク質摂取が有益であることを示唆している可能性があります』といった程度のものなのですが、ダイジェスト版では、『転倒事故防止等の観点からも、高齢者の筋肉づくりにはタンパク質の含有が多い充実した朝食が重要である』といった結論にすり替えられてしまいます。
これには、大学として研究助成金を集めやすくするという意図が透けて見えます。
食品の売り上げ増につながる、つまり、朝食礼賛につながる研究は、JAから一般食品メーカー、外食産業まで、多くの企業団体が研究助成金を出してくれます。
日大事件以降厳しくなるであろう国からの助成だけでは、資金不足に陥るかもしれないと考えた大学本部が踏み込み過ぎて、つまり勇み足で、そういった趣旨の研究報告であると、修飾を加えた可能性も大きいのではないかと思います。
実際には、朝食後と限定するより、タンパク質摂取後、食後2~3時間以内に筋肉運動をすることによって、摂取タンパク質は骨格筋を構成するタンパク質に効率よく変換される可能性が高い、ということで、実際にタンパク質の消化吸収時間、過程を考えれば当然のことです。
食事で摂ったタンパク質は一旦アミノ酸に分解され、再び合成されますが、消化・吸収にはおよそ3〜4時間かかるとされていますから、その時間内に筋肉運動をして、本能に筋肉増強の必要性を認識させることによって、効率良く骨格筋増強につながることが予想されます。
ですから、この論文の結論が『タンパク質摂取は、筋肉トレーニングを行う2~3時間くらい前に行うことが、最も効率の良い筋肉量増大法である』ということであるなら、まったく文句を言う筋合いもない、正論です。
単なる、運動生理学上の研究であって、健康とは直接の関係がないことですから。
それを、一部業界からの研究助成を得るために(と考えるしかないのですが)経済上の問題が絡んで、一般の方々を騙すようなことを広報、宣伝することは極めて好ましくないことであると思います。
こんな回りくどい言い方の研究ではなくて、ストレートに朝食を食べた方が絶対に良い、という実験結果でもあるなら、堂々とそれを公表、広報すれば良いだけの話であって、そんなものがないから、曰く
▶朝食は摂った方がかえって太りにくい(ある面真実)
▶朝食を食べないと午前中のエネルギーが不足して、能力が低下する(真っ赤なウソ)
▶朝食でタンパク質を多くとると、筋肉が増強され転倒事故のリスクを下げられる(風が吹けば桶屋が儲かる的論理)
といった具合です。こういった研究論文、特にダイジェスト版による、インチキに近い報告、言い換えれば、誇大な効能、効果を見破るのは、なかなか難しいことです。
ただ、何か一つ、これさえすればこんなありがたいことが起こる、といったような安っぽい健康食品の宣伝文句のような内容は、眉に唾を付けてから聞いたり読んだ方が良いでしょう。
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