西式健康法

西会本部公式ホームページ | 株式会社 西式サービス

糖尿病で怖いのは薬剤性低血糖 | 考察02

約14分

『電撃ネットワーク』という、パフォーマンス集団があります。パフォーマンス集団という表現は自称のようで、「お笑い」というにはあまりにも危険かつ過激なショーを舞台で繰り広げるグループです。

日本では、万一子供が真似して死んだら、誰がどう責任を取るのか?といった苦情が殺到しそうな芸風?で知られています。

そのためか、日本ではテレビ出演の機会も非常に少ないのですが、欧米諸国ではかなりの高評価を受けているとのことです。

日本ではディナーショーという形式は、クリマスシーズンくらいにしか開催されませんが、欧米では常設のディナーショー会場が多数存在するからでしょう。

もっとも、この欧米での評価も、自称であるのかもしれませんが。

さて、今日ご紹介したい内容は、もちろん『電撃ネットワーク』自体のご紹介ではなく、そのリーダーである南部虎禅(ナンブトラタ)氏が腎臓移植を受けることになっている、という報道について見解を述べたいからです。

気付いてみたら糖尿病

 報道によりますと、南部氏は67歳とのことで私と同い年です。腎臓移植をせざるを得なくなった経緯について、記事に掲載された内容の概略をご紹介しますと、糖尿病であることが発覚したのは5~6年前のことであったとのことです。

当初、体調不良を感じたので病院で検査を受けたところ糖尿病であることが判明したとされています。

重度の糖尿病、つまり血糖値が相当レベルまで上昇してしまっているときの自覚症状としては、悪心、強度の倦怠感、強い口渇、多尿等が知られています。

どのレベルまで、血糖値が上昇するとそういった自覚症状が強く現れてくるのか?といったことについては十分な情報はありません。

しかし、多くの糖尿病患者がまったく無自覚症状のまま、他の疾病や一般健康診断で発覚することがほとんどであるという現実を考えますと、たぶん食後血糖値ピークは少なくとも300~400mg/㎗ といったレベルであったのではないかと思われます。

記事によると、当初からインスリン注射を指示されたということなので、発覚時点では相当な高血糖を示していたものであると考えられるのです。

まったく無自覚で、データ的に糖尿病領域であるという状態では、軽度であればα-グルコシターゼ阻害薬(ブドウ糖の吸収を遅らせて、血糖値の急上昇を防ぐ)、もう少し高い血糖値レベルであれば、スルフォニル尿素剤系インスリン分泌促進薬(SU剤)が処方されるのが一般的です。

もちろん、必ず運動の奨励、食事制限等についても指導をしてくれます。

症状の推移と医師の見解

診断を受けた初診時には、「足が壊死状態になって、あわや左足切断かと思った」と、ご本人は述懐していますが、これは、医師の説明「このまま放っておくと、足を切断しなければならなくなるかもしれませんよ」といったような説明を、ショックから極端な形で理解してしまったものであると考えられます。

 

もし、そうではないのだとしたら、『体調が優れないから受診した』という説明になるわけもなく、また、実際に足の一部が壊死を起していたのだとすれば、切断する以外に処置法はありません。

少なくともそのまま緊急入院となっていたはずです。

 

ところが、実際はインスリン注射薬の処方で済んだということは、既に片方の足には軽い痺れや、皮膚の感覚異常であるとかの症状が出始めていたので、医師はそういった説明をしたものと考えられます。

その後、しばらくは、インスリン注射を続けていたものの、『面倒だから、主治医に相談し投薬治療に切り替えた』と南部氏は述べているのですが、医師が経口薬への切り替えを承知したということは、その時点では、経口薬でも血糖値コントロールが十分に可能なレベルに落ち着いていた、というであったと考えられるのです。

最初は、初診血液検査時のかなりのレベルの高血糖(と思われる、という私の推察です)に、主治医も作用が確実なインスリン注射を選択したわけですが、その後の各種検査でインスリン分泌能力自体が著しく低下しているわけではない、だからSU剤等でも十分に血糖値コントロールは可能である、という判断をした結果であるはずです。

その後に続く記事では、「不摂生がたたって糖尿病が悪化し、医師からは人工透析を勧められたが、公演活動を優先したいから、しなかったことが仇となった」と説明されています。

ただし、ここで注意しなければならないのは、人工透析には腎臓を長持ちさせるという作用、効果はまったくありません。

機能が著しく低下した腎臓の変わりに、血液浄化をしてくれるだけの作用です。

 

むしろ、一般的には透析を始めると、お役御免になったからなのでしょうか、腎機能そのものはより低下してしまう、とされていますので、一度慢性腎不全状態から人工透析を始めると、腎移植以外の対策はまったくなくなってしまい、後戻りができなくなります。

腎臓移植しかない?

結果的に、「生き続けるためには、腎臓移植しかないと言われた」としています。これも少し説明が必要です。

 

一般的には透析を受け続けるか、思い切って腎移植を選択するか、といった選択肢があるのですが、南部氏は医師から「腎臓移植しかない」と言われた、としています。

その理由は記事の半ばで一応紹介はされているのですが、南部氏は糖尿病治療を開始した後に、骨髄炎(糖尿病では炎症等が非常に治りにくくなるとされています)や、心血管性の心不全を起し、冠状動脈バイパス手術を受けています。

人工透析には欠点といえるものも当然存在します。1回に3時間以上の時間は要しますが、それでも、完全なかたちで腎臓の代用をしてくれるわけではないのだそうで、いろいろな問題が生じることが多いとされているのです。

透析を続けていると、循環機能や呼吸機能に悪影響が出ることが多い(血栓を生じやすくさせるようです)ので、大掛かりな心臓バイパス術を受けて2年しか経っていない南部氏に対しては、人工透析を始めるという選択肢は示されなかった、ということになります。

そのあと、移植術のために腎臓提供者(ドナー)として、配偶者が引き受けてくれることになり、遺伝的にはまったくの他人ですが、今日の最新医療技術よって、夫人が提供者となることが可能になり、今手術を待っている(掲載時には手術は終わっているはずです)

という段階とのことです。

腎機能はかなり低下しているうえに人工透析は受けられない状態ですから、現在の南部氏は心理的にも肉体的にも、非常に辛い状態で移植手術を待っている状態、ということになります。

悪化したのは治療を受けるようになってから?

これで、顛末はすべてご紹介したことになりますが、一番肝心なことは、推移を見ていきますと、治療を受けるようになってから急激に悪化しているようにも見える、ということです。

当初は、「体調が優れない」という程度であったのが、インスリン注射を打つようになって、途中から経口薬に切り替えたわけですが、その過程で骨髄炎、冠状動脈狭窄(狭心症等の具体的な症状があったかどうかは不明)に対する冠動脈バイパス術、そして、さらには、腎機能の著しい低下(糖尿病性腎症)によって「腎臓移植しかない」、と推移していきました。

最初に医師から警告されたのは『足の切断』の可能性であって、このまま放置していると「人工透析をしなければならなくなるよ」という警告ではなかったことに注目すべきです。

糖尿病が発覚した時点では、腎機能の低下を示す『クレアチニン値上昇』等のデータはたいして悪化していなかったと考えられるのです。正常値範囲であった可能性もあります。

それが、インスリン注射やSU剤系薬剤の服用によって、足の切断はしなくて済んだ?ものの、腎機能は低下を続け、腎移植術を勧められた段階では、人工透析も受けられないほど、その他糖尿病の影響と思われる諸症状が出てしまっていた、ということになります。

糖尿病治療を受けるようになってから、血中インスリン量を直接インスリン注射で補い、後にはインスリン分泌促進剤でインスリン分泌量を増加させて対処してきたことになります。

それでは、なぜ? 血糖値が高くなり過ぎないようにきちんと薬剤を用いていたのに症状だけは進んでしまったのか?

というところが最大の問題点です。

合併症は低血糖が原因

 この事実は、50年前に既に明らかにされています。薬剤の過剰摂取、注射による低血糖こそが、糖尿病三大合併症の直接的な原因であるということがです。

生物はあらゆる状況に適応する能力を持っています。血中ブドウ糖量が細胞にとって明らかに害をなすレベルになってくると、細胞には自動的に対ブドウ糖バリア機能が生じます。ブドウ糖が細胞内に入りにくくなるように適応してくれるのです。

つまり、高血糖に対しては本能の防御機能が働いてかなりカバーしてくれるが、薬剤によって生じた低血糖傾向による、細胞の低ブドウ糖状態は個々の細胞に深刻なダメージを与えるということです。

もともとバリア機能ができてしまっているうえに、正常者でも症状が出るレベルの低血糖状態をしばしば生じさせれば、一部組織(網膜、腎臓、神経)に致命的ともいえるダメージを与えます。

 

50年前は、そういったことが良く解っておらず、薬剤でいきなり正常とされる血糖値に下げることが一般的でした。

現在では経験的にそういったことが判っていますから、いきなり正常値に下げようとするようなことはなく、やや高めにコントロールするように心がけることにはなっています。

 

しかし、一方で、糖尿病患者に対する一般的な定期検診、つまり、合併症がまだほとんど出ていない状態ということですが、それは4週間で1回です。

4週間毎に1回、来院時の空腹時血糖値とHbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)を測定し、目標値に収まっていれば「はい、良い状態ですよ。また同じお薬を出しておきますね。次回は来月の○日の同じ時間で良いですか?」といったことになります。

HbA1cとは?

 ここで、ご存じない方に説明しておきますが、この「HbA1c」とは赤血球に含まれるヘモグロビンとブドウ糖の結合物質である糖化ヘモグロビンの結合率を表す数値です。

赤血球の平均寿命が4ヶ月ということになっていますから、血液の随時検査で、2ヶ月間の血糖値総平均が判るのです。

一方、空腹時血糖値は、直前の食事内容等が反映されますから、「検診直前だけの節制」という状態が成立してしまいます。

 

『そうだ、あさっては病院だから、食べ物に気をつけなきゃ』ということもできたのですが、このHbA1cの検査方法が確立、普及してから、まったくごまかしが通用しなくなったというわけです。

ご本人のためなんだから、「検診前だけの良い子」という行動はまったく意味不明なのですが、人はあらゆる状況下において叱られたくない、ほめられたいという本能があるようです。

 

ここからが肝心なところで、総平均値ですから、完全正常者であ場合の食後ピーク血糖値140㎎/㎗、空腹時、例えば85㎎/㎗ であったとする2ヶ月間の平均値と、糖尿病という診断を受けている人の、最高180㎎/㎗ と例えば、しばしば55㎎/㎗程度の低血糖状態(普通は軽度の低血糖症状が現われます)になってしまった人の値があまり変わらない、ということが起きる可能性が決して低くはない、ということです。

そういったことも徐々に理解されるようになってきたのでしょう。最近では血糖値の自己検査で毎日(インスリン使用者では最大4回/日)計測するよう求められることが増えてきたようです。

 

もちろん、まだ重度の糖尿病患者に限られているようですが、自己計測が非常に簡単で、精度のかなり高い自己検査用の検査機器の普及が大いに貢献しています。

くどいようですがもう一度

 糖尿病で怖いのは、薬剤量の過剰による低血糖である、ということだけは忘れないでください。

それが証拠には、合成インスリンが発明される前に糖尿病合併症で恐れられていたのは、生命を脅かす『糖尿病性昏睡』であって、失明でも、腎不全でも、足の壊疽でもありませんでした。

血糖値が制御不能なレベルに急上昇(500~700㎎/㎗、といったレベルで、最高では1000㎎/㎗ を超えたケースも報告があります)した際に、異常高血糖によって生じる症状で、その状態が続くと確実に死に至ります。

インスリンの分離抽出、後には合成に成功して、これで糖尿病で死ぬ人をなくすことができた、という大変大きな進歩であったことは事実なのですが、逆に実質的な薬害によって、多くの透析患者、失明者などを出し続けていることも一方の事実です。

こういった方々は薬剤性の低血糖に注意!!

インスリンを打つまでもない、中程度の糖尿病患者さんで、インスリン分泌促進剤である、SU剤としては、オイグルコン、アマリール等、また、速効型インスリン分泌促進剤(スターシス等)やDPP-Ⅳ阻害薬(グラクティブ、エクア等)を使用している方々は、低血糖に十分注意する必要があります。

もちろん、食後の血糖値上昇を予想して薬剤は処方されていますから、インスリン注射をしている方も、低血糖に対する注意は絶対に必要です。

注射したら、絶対に想定量もしくはそれ以上の食事を摂らないと、必ず血糖値は下がり過ぎてしまいます。

より軽度な患者さんに良く処方されるα-グルコシターゼ阻害薬(製品名:グルコバイ、ベイスン等)などは、単剤服用であれば低血糖を心配する必要はありません。

ただし、複数の成分を含む「合剤」も各種製造されていますから、すでにそれら糖尿病薬(糖尿病治療薬とはあえて申し上げません)を服用している方は、主治医に薬理作用をたずねてみてください。

ご自身で長期間服用を続けている薬剤の、個々の薬理作用はもちろんのこと、正確な薬剤名すら記憶していない人の方が圧倒的に多いのです。

この点だけは勘違いしないで!!

一部の学者が『機能性低血糖』と称して、一部ビタミンの大量療法といった治療法を推奨していることがりますが、インスリン分泌促進剤系の薬剤を服用していない限り、低血糖症状を起すことはありません。

一部の方々が、ペットボトル症候群といわれる各種症状が生じる原因として、甘い飲料等の摂り過ぎで、異常にインスリンを分泌する体質になってしまい、その結果、インスリン過剰分泌が低血糖を起したのだと説明しているようですが、これは劇症のⅡ型糖尿病を発症した状態であって、低血糖症状ではありません。高血糖です。

 

急に血糖値が400~600㎎/㎗といった値になってしまったことによって生じた症状です。

薬剤性低血糖と同じ低血糖であると勘違いして、多量のブドウ糖液などを無理に飲ませたりすると、死に至る可能性もないとは言えません。すくなくとも症状は悪化します。

 

極端な低栄養状態(餓死が迫っているような)であるとか、糖質制限長期間実施者が過大、過酷な運動中、あるいはへばった直後でもない限り低血糖にはなりません。

 

低血糖は高血糖と異なり、短時間でも致命的な傷害をもたらす要因となりますから、『糖新生』によって、必要最低限の血中ブドウ糖はあらゆる手段を用いて作り出し、維持してくれる仕組みをわれわれは備えています。

型と

糖尿病にはⅠ型とⅡ型の違いがあることを、はっきりと認識してください。Ⅰ型(いまだ原因は不明ですが、ウィルス説が有力)は不幸にして突然、インスリン分泌能力が極端に低下してしまう病気であり、これはインスリンで補う以外の方法がありません。

Ⅱ型は、暴飲暴食等が原因となって、インスリン分泌能力が追いつかなくなった結果として血糖値が上がりすぎる状態と考えられています。食事の節制や糖質制限食で完全に正常化できます。

断食療法で1週間とかインスリン分泌をさせないで休ませてやれば、それだけで分泌能力が復活することも多々あります。

ただし、この状態をもって『糖尿病が治った』とは絶対に思わないください。Ⅱ型糖尿病は病気というより『体質』です。

断食療法(生食療法も同じように有効)で血糖値データが完全に正常範囲に戻ったとしても、また、同じように暴飲暴食を始めてしまえば、しばらくすれば必ず血糖値は上がってきてしまいます。体質なのです。

本稿の内容が信じられないという方に

 薬剤性低血糖問題を日本で最初に指摘し、警鐘を鳴らすどころか手弁当で全国を駆け回って厚生省に薬剤の使用規制を働きかけた、偉大な医師の著作がありますのでご紹介しておきます。

当初は、前述のSU剤が誰でも薬局で購入できたのだそうで、そこは素人の悲しさですが、多めに飲めばより効くに違いないといった思い込みからなのでしょう、過剰に服用して重度の低血糖を起す人が続出し、その結果、糖尿病性昏睡で死亡した人がおよそ50人、植物人間となってしまった人も50人以上出たとされています。

もちろん、同じような時期から、糖尿病性網膜症で失明した人も増加してしまいました。人工透析患者にしめる糖尿病性腎症の割合も増加し続けているように思われます。

さて、その本とは、

糖尿病をきる。あなたの糖尿病学入門』(かまわぬ書房発行)二宮陸雄先生著。

 

という名著です。

残念ながら、現在は絶版となっており、古本でしか手に入りませんが、興味がおありになるかたはご一読ください。

なお、本原稿を書き上げた時点では南部虎禅氏の手術は外科的に大成功したそうです。良かったです。

ただ、実際に定着し、しっかりと機能してくれるかどうかは、まだあと1週間くらい経たないと判らないとのことでした。同学年であるという以外、直接的には存じ上げない方ですが、腎臓がうまく機能してくれるよう祈ってます。

 

 

 

 

 

 

 

この記事を書いた人

株式会社 西式サービス西会 本部長西 万二郎
昭和27年(1952年)東京生まれ。東京工業大学工学部付属工業高校機械科を経て立教大学社会学部卒業。西式健康法創始者、西勝造の次男・西大助(西式健康法普及団体、西会第三会長、故人)次男として生まれ、在学中より西式健康法西会本部に勤務し西式健康法普及活動を開始。昭和52年業務部長、昭和63年本部長に就任。主な著書に『西式健康法入門』(平河出版社刊、共著)がある

コメント

*
*
* (公開されません)

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

Comment On Facebook

G-RRXBNEVVBB