西式健康法

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自律神経と酸塩基平衡 | 栄養02

約7分

「背腹運動」の解説でもそれなりに説明しましたが、自律神経と酸塩基平衡に関する関連性について、解説します。

まず、酸塩基論ですが、これにはまったく異なる二つの流れがあります。

そのひとつは純粋に生理学的な内容です。例えば過呼吸に陥った場合は、体の水分(血液を含む)のなかの酸性要素のひとつである血液中の二酸化炭素濃度が低下してしまいますから、体液は酸性度が低下する方向に傾きそうになります。

つまり、ややアルカリ性気味に傾こうとするのですが、実際は恒常性(Homeostasis=ホメオスタシス)という作用によって、特定成分の廃棄や体内の他の物質を血中に放出することによってによって微アルカリ性を維持してくれます。

動脈血と静脈血、また細胞内液と細胞外液でも微妙に異なっているはずではありますが、多くの文献では、ヒト体液の微アルカリ度はpH7.4ということになっているようです。血液のpHと限定している文献もあります。

万一、実際に酸性度、アルカリ性度が高いままになってしまえば、アシデミア、アルカレミアという病名が付いてしまいます。

なお、これらは明らかに血液pHが実際に変動してしまった重篤な状態であって、その前駆症状的な状態、酸性に傾きそうになっている、調整を要する状態をアシドーシス、放っておくとすればアルカリ性に傾きそうな状態をアルカローシスと呼ぶのが一般的と思われます。

なお、これら体液のpH調整要素として、例えば嘔吐(強塩酸を吐き出すことによって酸性要素を強制的に排泄)等があります。

 

酸性食品・アルカリ性食品

 もうひとつの流れとして、前述の酸塩基の問題が純粋な生理学、医学的なテーマであるのに対し、酸性食品、アルカリ性食品の摂取バランスによって健康を維持しよう、病気を治そうといった考え方があります。「梅干はアルカリ性食品だから健康に良い」といった類の考え方です。

摂取食品の種類によって、体液pHをコントロールすることはまったくと言って良いほどできません。酸性食品、アルカリ性食品という概念は100年以上前の、「トンデモ理論」と言っても差し支えのない学説に基づいています。

この学説を唱えたのは「グスタフ・ブンゲ」というスイスの学者だそうですが、『生物は体内で食材を燃焼させてエネルギーを得ているが、燃焼させても必ず灰は残る。燃えた結果の生成物である灰は、体内の液体に溶けているはずであり、その灰が血液等のpHを決定する』という学説です。

言うまでもないことですが、体内で食物をエネルギー化する仕組みは、ある面では燃焼と似た現象ではありますが、体内で実際に直接的燃焼が起きているわけではありません。

しかしそのような仮説を立てたブンゲ博士は、食物を徹底的に素焼きした結果、残った灰を溶かした溶液のpHを測定して、酸性食品、アルカリ性食品という分類法を提唱したわけです。

主成分としてカリウム、ナトリウムが圧倒的に多い植物類の灰を溶かした溶液は必ずアルカリ性を呈するし、肉を焼いて残った灰(ごく微量ですが)を溶かした溶液は、肉に含まれるリン、イオウ、塩素によって酸性を呈するということに過ぎません。

ですから、今日の栄養学、食品科学、食品化学といった分野ではこのアルカリ性食品、酸性食品について教わることはまったくありません。

また、燃えてしまった有機酸(梅干の強い酸味=クエン酸等)は焼失してしまいますから、このブンゲ博士の方法ではまったく考慮されないことになります。

あんなに酸っぱい梅干がアルカリ性食品の王様と呼ばれるようになってしまった背景には、そういうからくりがあるのです。

 

自律神経

 ヒトの自律神経は、腸神経系、交感神経系、副交感神経系の3種類有るというはすでに「006:背腹運動」の項で述べました。

交感神経とは動物的な行動を効率よく司る自律神経系であり、副交感神経系とは植物的な行為を効率よく行う自律神経系です。

言うまでもないことかとは思いますが、「自律神経」とは自分の意識、思考とは関係なく自動的にコントロールされる神経系統のことです。

ただし、ここで私が言っている「動物的」、「植物的」という表現は、一般的な体性神経=動物性神経、自律神経=植物性神経とは異なりまして、自律神経の中の交感神経系を「動物的」、同じく自律神経の副交感神経系を「植物的」と表現しています。

動物的な行為、闘争であったり逃走といった行動を行うためには、骨格筋の使用が大前提であり、急激に骨格筋に大量の血流が生じた際に、脳貧血だけは絶対に起さないよう事前に心拍を上げ、予備的に全身の動脈血管を締めて収縮させ、それに備えます。そういった際には、消化管への血流が激減することは生理学上よく知られた現象です。

また、副交感神経系は、消化吸収、成長、怪我の修復、未知の外敵(免疫を持たない細菌、ウィルス等)に対する対応が必要になった場合には、交感神経系を全面的に抑制して、それら活動の効率向上を最優先とします。

高熱が出ると、うんうん唸ってまったく動けなくなるということでお分かりになるかと思います。

私は、このような移動等の行動を伴わない、植物が日常的に行っている生物活動のことを「植物的」と表現しています。

交感神経が優先した状態では、闘いには有利ですが、免疫能等の内政問題は後回し、どころかほとんど配慮されません。

明日の健康の心配をして、少しでも闘いや逃走の手を抜けば、次に待っているのは死か大怪我である可能性が生じます。

深手を負ったり死んでしまっては明日の健康も未来もないわけで、交感神経亢進時には副交感神経が担当している分野はほぼ休ませることにななるのです。

食事しながら殺し合いをするといった状況には適応していないということで、両方の系統を同時にフル活動させるような状況に対する対応は、確率論的に進化の過程では選択されなかったということです。

ところが、こういった恐怖、不安といった感情は、極めて原始的な反応であり、1億数千年前から哺乳類全般が持っていた本能プロいグラムと考えられますから、そのプログラムは「殺される」かもしれないという状況に対応するものです。

今日の多くの先進国では驚かされ、どきどきさせられる状況や、ずっと不安な気持ちにさせられる状況といっても、死刑囚でもない限りその恐怖感や不安が死に直接結びつくようなことはないのですが、非常に古い時代にインストールされたプログラムですから、そういった感情に支配されている状態では、自然と死から逃れるためのモードになってしまうということなのです。

つまり、常に不安な感情を抱き、びくびくしていると病気が治らないどころか、どんどん悪化することになりかねないうことです。

酸・アルカリ体質と自律神経バランス

 旧来の酸性体質、アルカリ性体質という分類の仕方は、交感神経過剰亢進体質、副交感神経過剰亢進体質と、ほぼ同じ意味を持っています。

交感神経過剰亢進状態は、酸アルカリ論における酸性体質とほぼ共通していますし、副交感神経亢進状態で生じる諸現象、症状は、アルカリ性体質と呼ばれる状態とほとんど共通です。

生理学的に正しい解説ということになれば、これは自律神経の問題として捉えるのが間違いなく適切であるということになりますし、ここに酸性食品、アルカリ性食品という分類に基づいた調整を加えると、かえって好ましくない問題、判断ミスを起しがちになります。

例えば運動をすると、交感神経は自動的に亢進してくると同時に、血中二酸化炭素濃度は増大し酸性要素が増加します。筋肉を働かせた結果として生じる乳酸も影響するはずです。

一方、深呼吸をすると副交感神経がやや亢進し、交感神経亢進は抑制されます。その際は血中の二酸化炭素濃度は低下して、酸性要素は減少気味となります。

運動直後に血圧測定をすれば、だれでも安静時より高い値を示しますし、最初の血圧測定でやや高めの数値が出たときには、深呼吸を数回してから計測しなおすと、多くの場合いつもと同じような数値になる、という現象です。

ですから、自律神経の亢進状態は酸性・アルカリ性の調整とほぼ表裏一体のような関係にはあるのですが、それをブンゲ博士の分類法である、酸性食品、アルカリ性食品といった分類法に従って調整しようとすると、間違いを犯すことになる可能性が高いということなのです。

酸性食品とされる食品類の過剰摂取は、腸内細菌叢の悪化を招く可能性が非常に高いとは言えますが、それは体液を酸性化しようとするからではありません。

アルカリ性食品とされる食品群(ほとんどが植物性の食品)が体に良いとされる理由は、やはり腸内細菌叢を良い方向に導くから、と割り切って考えたほうがずっと賢明でしょう。

この記事を書いた人

株式会社 西式サービス西会 本部長西 万二郎
昭和27年(1952年)東京生まれ。東京工業大学工学部付属工業高校機械科を経て立教大学社会学部卒業。西式健康法創始者、西勝造の次男・西大助(西式健康法普及団体、西会第三会長、故人)次男として生まれ、在学中より西式健康法西会本部に勤務し西式健康法普及活動を開始。昭和52年業務部長、昭和63年本部長に就任。主な著書に『西式健康法入門』(平河出版社刊、共著)がある

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