「死なせない技術に長けた近代医学」でストレスについて触れましたが、もう少し詳しく解説をします。
心理学を少しでも学んだ方なら常識に属することですが、普段日常会話で語られる「ストレス」という言葉は、実はストレスを指しているのではありません。
ストレス学説の提唱者であるハンス・セリエ氏は、そこのところを明確に区別しています。
「外部環境からの刺激によって起こる歪みに対する非特異的反応」がストレスであり、多くの方が習慣的に用いている「ストレス」という用語は、「ストレッサー」つまり「ストレスを引き起こす外部環境の刺激」の意味で語られることがほとんどです。
ですから、多くの方が「ストレスがいろいろあって熟睡できない」等の表現は「ストレッサーが多くて」と言わなければいけないことになります。
別に用語の意味を取り違えていたからといって、何が問題なんだとお考えになる方も多いことと思いますが、大いに違ってきます。
まず、がみがみとうるさい上司が毎朝礼のたびに営業課員全員に檄を飛ばしているような場合、目標は高いに決まっていますから、多くの人は達成できません。
全員が罵倒され、自分だけが特に罵倒されているのでなければ、全員にとって同じ強さのストレッサーということになります。
ところがそれを思い悩んでしまう人もいれば、あれで課長けっこう優しいところもあるんだぜ、といった感じで大して気にとめない人もいます。
つまり、当たり前の話なのですが、ストレスの強さというのはストレッサーとしての表面上の強弱よりも、受け手の感受性の問題であり、受け取り側が決定するということです。
相手がニコニコしながら知らない外国語で話しかけてきた場合、仮にそれが辛辣な侮蔑の言葉であったとしても、意味が分かりませんから相手の表情に合わせて多くの人は微笑み返します。
一方で、その言語が理解できる人に対して同じ内容の言葉を同じ態度で言ったとしたら、相手の顔はみるみる紅潮することになるでしょう。殴りかかるかもしれません。
これは極端な事例ですが、ストレッサーによって心に生じるストレスも同じことで、それを強い歪みとしてとして心に蓄積していった結果肉体的変調まで起こしてしまうのか、何事も起こらせないで済むかという違いは、受け手の気の持ちようが最大要素であるということです。
くれぐれもストレス強度表に基づいて判断しないでください。例えば1968年に発表された米国医師2名による研究では、ストレス強度は「長年連れ添った配偶者の死」が最大値の100であり、その他の主だったイベントをいくつかあげますと、「離婚」73、「夫婦別居」65、「失業」47、「上司とのトラブル」23といったようなストレス強度表を発表しています。
ただ、これは平均値というより、産業心理学的な立場によるストレス強度表であることを忘れないでいただきたいと思います。
集団の構成員を対象とした場合には、個別に背景調査をしたり、徹底的にカウンセリングを行っていたのでは効率が悪すぎるし、経費もかさみます。
仮に実態とは合わないケースがあったとしても、外形的事象によって判定、分類してしまった方が、トータルでは組織にとって効率的であり、費用負担は少ないということなのです。
ストレス強度表によって、ご自身のストレス強度を決めつけないようにしてください。
なお、ストレスとして溜め込まないためには背腹運動を。また、ストレスの影響を受ける肉体的な偏重の軽減には温冷浴がおすすめです。
なお、「ストレス」に対するもっとも適切な訳語は「応力」であるということにな老化と思います。悲惨な航空機事故のうち、機体のトラブルが原因である場合の多くは応力集中による機体の損傷が原因です。
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