「マスク装着は熱中症と無関係?」
私自身は、直接番組を視聴していたわけではなく、その内容を報道したインターネットニュースで知ったのですが、NHKで7月1日(2021年)に放送された『あさイチ』という番組の中で、「検証!マスクで熱中症になる?」という特集が組まれたのだそうです。
実際にマスク装着時の中心部体温の変化について、大学の研究所に依頼し、実際に測定してもらった結果だということだそうです。
今回このテーマをご紹介させていただいたのは、今後とも次々に紹介されていくであろう、「最新科学」という衣をまとった医学分野に限らず、似非情報に十分に気を付けていただきたいという趣旨からです。
以前、『富岳』コンピュータが導き出した結果だからといって鵜呑みにしてはいけない、ということを申し上げたことがありますが、大学の研究者に研究委託をした結果だとしても、その教授なり、配下の准教授、助教の専門分野によっては、見当違いの、まったく的外れな結果が出てしまうこともある、ということを知っていただきたいのです。
中心部体温とは?
最近は、記事を執筆している記者のレベルが落ちているのか、自身が十分に理解しないまま、用意された要約主旨ペーパー(プレスキット)をそのまま、あるいはそれをまた、知識がないまま要約してしまったと思われるような、肝心な部分についての説明、紹介が欠如した記事をよく見かけるようになりました。
私の方針として、そういったあいまいな情報を刷り込まれてしまうのは、基礎知識が不十分であるために、多くの記者と同様、本来のポイントを理解していないまま、「ふ~ん、そうだったのか」と、誤った情報を鵜吞みにしてしまうことが、個人の健康はもちろん、国を危うくすることもあります。
本ブログ愛読者の皆さんには、正確な情報として認識、ご理解いただき、そして正しく理解していれば、他人にもきちんと説明ができるということですから、まず、小見出しの『中心部体温』という用語から理解していただく必要があるのです。
『中心部体温』」とは、一般に左心室を出た直後の血液温度のことを言います。言うまでもないことですが、左心室を出た血液は、まず脳を含む内臓を充足させることを優先として、四肢にも送り込まれるわけですが、四肢の温度は低下しても主要臓器には至適温度というものがありますから、それを必死に守ろうとします。
ですから、中心部体温とは主要臓器の温度であると考えてもよいわけです。一応、この至適温度は37℃とされておりまして、上下各々1℃変化すると、一般的には不調を感じ、2℃変化すると、ほとんどの場合、通常の行動はできなくなります。
通常の腋下による体温測定では、下は34.5~6℃であり上は38.5~6℃を各々超えてしまえば、臥せっているしかない状況というわけです。
熱中症とは?
次に熱中症についても正しく理解する必要が出てきます。通常の発熱は免疫反応の一つの要素として発現しますが、『熱中症』というのは、体温調整機能が低下あるいは、それを達成するための体内備蓄(主として水分)が不足して、体温調整をするための指令は出ているものの、物理的条件によって温度制御ができなくなった状態です。
ですから、風邪等を罹患した場合の倦怠感は、中心部体温の上昇だけでなく、免疫能の発動、強化させるための、自律神経系の意図的な副交感神経系の著しい亢進でもあると考えられるのですが、熱中症は純粋に物理的なオーバーヒートですから、徐々に症状が増悪するというより、ある時点を境に急変するということになります。
中心部体温の変化というものは、生きた人間では計測が非常に困難ですので、一般の医学研究では十分なデータはないようで、未知の部分も多いようです。
軍事的医学データは、米軍では非常に豊富なようですが、直接国防にもかかわることなので、十分には公開されていないようです。
なんと言っても、米国は極寒の地アラスカ、シベリアから、中東砂漠地帯での戦闘(これは実戦で経験済み)も想定していますから、そういった類のデータ量、密度で中ロなど及びもつかない豊富なデータを持っているようです。
こういったことをお伝えする一つのポイントは、軍以外では人体実験(米国では志願兵を募ると思われる)が困難であるため、熱中症に陥ってしまった場合の応急処置を含む臨床医療では遜色などないものの、熱中症に陥ってしまう条件については、民間は十分なデータは持ち合わせてはいない、とういうことです。
調査、研究委託された学者
所属大学を含めて実名もお知らせしますが、データ収集を受託した学者は「こんな形で、データを利用されるとは思わなかった」という感想を抱いていたり、NHKにも抗議している可能性もないとは言えませんので、まずそれはご了解ください。
取材対象者に、いちいち編集済み番組を視聴してもらって了解をもらうということは、大物芸能人の半生記的な番組でもない限り、業界の習慣としてありません。
NHKからデータ収集、解析を委託されて報告したのは、名古屋工業大学の平田晃正教授と紹介されています。名古屋工大のホームページによると電気電子分野に所属する教授で、専攻というのか専門分野は、人体の電磁化安全性能評価技術の開発、電磁界の医療応用に関する研究、複合物理趣味レーション技術の開発となっています。
医学分野の素人というわけではありませんし、医学分野の研究者とも共同で各種研究に取り込んでおられることは容易に想像がつきますが、どちらかといえば非侵襲測定、診断等の研究と、電磁波による対人影響を研究するのがご専門のようです。
これは私の想像ですが、平田教授は非侵襲(傷をつけずに、管を血管に刺さないということ)による中心部体温測定法を開発なされたのではないと思います。
研究結果は?
報道によると、平田教授は実験の結果「(マスク着用は)ほとんど熱中症のリスクには直結しないということが示されました」と述べたとしています。
細かい実験内容は、報道記事からは判明しませんが、単純にマスク着用者とマスク非着用者に同一環境、同一時間の中心部体温の変化を測定したのではないかと想像されます。
その結果両者の間には、有意な差異は見いだせなかったということであろうと思われます。
「中心部体温」の説明でも申し述べました通り、中心部体温を一定に維持するということは、生体にとって最優先事項のひとつです。
なぜ、軍には存在するようだが、民間に十分なデータがないのかというと、実際に熱中症を発症させてみないことには、境界域のデータが取れないからであって、テレビ番組のために被験者としてアルバイト学生を使ったような実験では、何らの差異も出ないのは当然のことです。
生体にとって、体温調整のためのあらゆる手段を使い切ってしまうから、体温が上昇してしまうわけで、ただマスクをしただけでは、発汗量の増加、消化管筋肉の活動抑制等によって、十分に放熱量、発熱量の調整が可能ですから、中心部体温に変化が出るわけがありません。
言うまでもありませんが、呼気を手に吹き付ければ暖かく感じるはずです。その温かい空気を再吸入すれば、差し引きすれば、熱放散量は結果的に、確実に減少するに決まっているわけです。
つまり体温上昇の要素になるということです。熱発生と、熱放散の熱バランスが限界点に近づいているにも関わらず、マスクなどで熱放散を阻害し、さらに脱水も生じていて十分な発汗もできないということになれば、当然熱中症リスクは上がります。熱中症になります。
飲酒運転実験に例えれば
この実験結果を他のことに例えると、実際にはそんなばかばかしい実験を実施しようとは誰も思いませんが、飲酒運転によって事故率の上昇が有るや否やの実験と共通する点があります。
何通りかの飲酒量を設定し、実際に自動車教習所で運転をさせてみて、数例の実走行試験では事故は起きなかった、という事実があったからといって、「飲酒運転はほとんど自動車事故のリスクに直結しないということが示されました」と報告するに等しいような愚かしい結論です。
私はマスクの有効性については、すでにいろいろな形で疑問を投げかけてきたわけですが、この平田教授のいい加減な実験(報道の範囲内では、と申し上げておきます。繰り返しになりますが、ご本人にとっても不本意な形で放送されてしまった可能性もありますので)では、マスク装着による隙間からのメッシュを通過しない空気量であるとか、メッシュそのもののサイズ、それをまた何層にしているか、といったことまではまったく踏み込んではいないようで、少なくとも医学実験としては話にならないようなラフな、お粗末な実験と言わざるを得ません。
繰り返しになりますが、これで子供さんがまた運動中に死亡するような事故が起きたら、どういったかたちで責任を取るおつもりなのでしょうか?
この結論、条件設定のない「マスクの着用が熱中症のリスクに直結しない」という結論が、平田教授が導き出した結論と同じであるとするなら、平田教授とNHKの責任は重大です。
平田教授は生理学の専門家でもないにもかかわらず、限定的な範囲における中心部体温の変化だけを見て、熱中症の発症リスクには影響しない、と実質的に断定してしまったこと。
NHKは非侵襲的身体測定のエキスパートに高度な生理学的判断を委託してしまったことです。
この番組を視た人が、マスクを着用したまま熱中症で倒れたり、万一にも亡くなったような場合には、NHKと平田教授を相手に損害賠償請求訴訟を起こせば確実に賠償金を取れるでしょう。
それほど、うかつないい加減な情報をなぜわざわざ番組で流すことになったのか、不思議というしかありません。NHKも官公庁と同様、著しい人材の劣化が生じているのではないでしょうか?
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