代表ブログ 003 – 医学と西勝造

祖父西勝造は、炭鉱の技師を振り出しに、最終的には日本最初の地下鉄道(現在の東京メトロ銀座線、銀座-浅草間)の設計責任者を務めた土木技師でしたが、同時に子供の頃から虚弱であったために健康、医学に対しても人一倍関心が強かったのです。
日本最初の地下鉄道用隧道設計に当たって、実地に運行中の地下鉄道を視察するため大正6年末からおよそ1年間米国に留学をさせてもらいましたが、その間に欧米の最新医学の書物を手に入れ、また、当時の米国医学界の高名な学者数名とも面談をする機会を得たという経歴を持っています。
土木技術は、多くの答えは計算で求めることができます。祖父は、自分の土木で培った能力が医学の世界でも役に立てると考えたようでした。

今日でも基本的には同じことですが、医師でありながら物理学に精通した人はほとんどいません。同じく、化学、細菌学、高等数学のいずれかに精通した人も滅多にはいないはずです。医師の教育課程にはありませんから。

そこで、祖父は提議しました。血液循環は唯一心臓のポンプ作用によって行われているという、当時の定説に対し異議を唱えたのです。

ポンプの構造、運用にも長けた炭鉱技師出身で高等数学、流体力学、構造力学等にも精通した祖父は、心臓の想定出力、血管の各段階における総断面積、管路抵抗、血液の粘性等々の要素から計算すると、どのように考えても心臓だけの、しかも左心室のポンプ作用だけで循環が成立するわけがない、と計算式を根拠に主張しました。

医師達から「申し訳ないが、われわれは微分とか積分とかさっぱり理解できないのです。もっと分かりやすく説明してもらえませんか?」とでも言ってもらえれば、祖父ももっと丁寧に説明しようと努力したのでしょうが、当時の多くの医師の反応は「土木屋風情が、えらそうに何を言うか」といったものだったのだそうです。

こういった対応に失望した祖父は、結局すべてを独自に組み立てていくしかなくなったという事情です。

なお、この論争には当時の主流であった、ある治療法に対する是非を問うという背景がありました。

当時は、心臓のポンプ作用さえ強化すれば人を死なせずにすむはず、という考えに基づいて強心剤(当時はカンフル注射)を多用していましたが、祖父はこのカンフル注射に対して強く批判をしておりました。

曰く、「強心剤は殺人罪(剤)」。カンフル注射を打つから死んでしまうのであって、全身の血液循環は単に心臓ポンプ作用によるものではないにもかかわらず、全体のことを考えずに心臓の拍動のみを強化しようとするから、かえって全体の循環の調和が狂って死なせてしまうのだ、という主張です。

純粋なカンフル注射(樟脳精の水溶液)は、実はもう50年以上も前に注射薬としては使用できなくなっていまして、このことからも祖父の主張の正しさは証明されています。

なお、今日では血液循環はどのように説明されているかというと、必要な要素として心臓のポンプ作用のほかにも「筋ポンプ作用」、「呼吸ポンプ作用」、「毛細血管内外の浸透圧差」といった補助ポンプ的な要素が次々と加えられていきました。

祖父が批判していた当時の主流の学説では、臨床的にも誤りであったし、血液循環原理についての理論もまったく成立していなかったのだ、ということが逆にはっきり証明されているということになります。

よく解ってなどいなかったのに、よく解っていないという認識すら持っていなかったというところが最大の問題です。

一流の医学者になればなるほど、「そのことは、まだ良く解っていないのです」という言葉が多く出てきます。医学分野ではよく解っていないことが本当にたくさん存在するのです。

ここで、ただ祖父の100年前の主流医学に対する批判が正しかった、という自慢話をさせていただいているわけではありません。

今日も同じようなことがあるから、昔のことについてお話させていただきました。医学統計的に実質的に効果はないに等しいという結論が出ている、抗血小板薬「バイアスピリン」(主成分はアスピリン)。

このバイアスピリンを連用していると、消化管に潰瘍を生じさせる等の重大な副作用が生じますから、胃酸分泌を強力に抑制するプロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方せざるを得なくなりました。

その結果として何が起こっているか?最終結論が出ているわけではありませんが、PPIは重大な腎機能障害を引き起こすという研究報告がなされました。また、一部の認知症の発症率を有意に上昇させるという報告もあります。

高脂血症と高血圧は、動脈硬化と腎機能低下(慢性腎臓病=CKD)の最大の原因だ、動脈硬化は脳梗塞、心筋梗塞、を引き起こす、だから血液が固まって血栓が生じないようにアスピリンを飲ませなければならない、しかし、そのアスピリンには重大な副作用があるから、胃を保護するために胃酸分泌を抑制する必要がある、であるから、アスピリンを処方する際にはPPIが欠かせない、という順序です。

しかし、米国におけるPPIの承認、発売が1995年、CKDという病態が米国腎臓病学会で公式に認められたのは2003年のことです。普通に考えても、それ副作用なんじゃないのと考えたくもなります。

話を少し戻しますが、最新の医学研究では血栓が生じる原因は、血管中を流れている血液が突然血小板作用によって固まってしまうのではなく、動脈血管内皮細胞の内側に貯留したコレステロールを主成分としたプラークによって動脈血管の狭窄が生じ、血管内皮細胞下のプラークが石灰化などした結果、別な場所で剥離して内皮細胞とプラークの混合物が血管内に流れ出して血管を詰まらせる、というように理論が変わってきています。

つまり、抗血小板作用による血栓症に対する効果はまったくと言ってよいほど期待できない、ということが理論上は明白なのですが、『だって、みんな使っているし、絶対にだめという正式な発表もないから』という理由で医療現場では漫然と使われ続けています。

そして、そのばかばかしい薬剤の副作用を抑えるために、もっと怖い副作用があることがほぼ明白となりつつある薬剤が多用されているということです。

ごく一部の分かった事実、症状だけに焦点を当て、それを抑えるのに必死になって、他に影響を及ぼした場合には、また他の薬剤を用いて防ごうとする、という負の連鎖が起こっています。

体に備わった自然の治癒力を、もっと効率よく発現させる工夫こそもっとも重要でしょう。